秋葉 ダイスケ(ペンネーム)

yubi-20101015最近、日本を代表する某大手企業の研究リーダーのA氏にお話を聞く機会がありました。A氏はある分野の製品で世界最先端を走っており、業界でも知らない人はいないというほどの方です。長年の研究成果はすでに製品になっており、売上も上がっているそうですが、当該事業が会社のコアビジネスではないという位置付けされてしまい、縮小の方向になってしまったとのことです。そのような経緯から、事業継続のためにスピンアウトを検討したいという相談でした。

お話を伺ったところ、A氏が何とか事業を継続させるために八方手を尽くして苦労されてきた様子がヒシヒシと伝わってきます。一方で、会社の経営方針は常に変化します。部下のモチベーションも心配です。取引先にも迷惑はかけたくない。何よりも自分の家族が独立を許してくれるのか?。どうやら会社側は、A氏が独立してその事業を存続させたとしても、事業規模の縮小路線に変化はなく、問題ないというスタンスだそうです。なんと理解のある寛大な会社でしょうか。

しかし、残念ながらA氏には創業プランといえるような計画がまだないそうです。大事なことは会社の設立登記の方法やオフィスの借り方といった形式的なことではありません。このようなことは書店で本を買い求めれば大体のことはわかります。A氏のグループには研究者はたくさんおりますが、会社を経営していくにはその他のスキルを持ったメンバーも必要になります。大きな会社の一グループから独立した企業になるのですから、大きさに見合った事業内容と予算を考えなければなりません。もちろんビジネスモデルも再構築が必要でしょう。そのような時に、適切にアドバイスできる人間がいないのです。

大手企業に所属している方々の多くは(自分もかつてそうでしたが)、独立して新しいベンチャーを作る際にとまどうことが多いと思います。A氏自身も検討する余裕がないような様子でしたし、A氏の独立に協力してあげたいと思っている上司や同僚の方々もいらっしゃるようですが、実際に出来ることは限られています。実は、こんな時にアドバイスできるのは、やや願望思考になりますが、ベンチャーキャピタリストではないかと私は考えます。

「じゃあ、会社をつくったら連絡をしてください」
A氏はあるベンチャーキャピタルの方に言われたそうです。ベンチャーキャピタル業界の人にとっては当たり前のように聞こえますが、本当は会社をつくる前に相談したいことがたくさんあるはずです。それでなくとも、理工系の方々は「とりあえず動いてから考える」ということが苦手なタイプが多いのですから。このような、ちょっとした一言にも、ベンチャーキャピタル側のサポート不足が現れているような気がしてなりませんでした。

さて、日本の多くの優良企業も最初は創業ベンチャーから出発しました。今は投資資金の流れが停滞し、このまま回復しないようにも思えますが、未来を見つめる起業家は前向きに機会をうかがっています。こんな時こそ本当のベンチャーキャピタリストの出番です。「うまくいっている時はだれでもよい投資家になれる。うまくいかないときにこそ、本当によい投資家かどうかを試される。」米国でアーリーステージのバイオ専門に投資しているキャピタリストのコメントです。

必要なのは、情熱を持った起業家と賢明な投資家です。どうしたら創業ベンチャーを成功に導くことが出来るのか。周知のとおり、新興株式市場の株価は7割も下落し、経営者の不祥事が相次いでおり、市場は信じてもらえなくなっています。こうしたVCにとって厳しい時期に、ベンチャーキャピタリスト、あるいはベンチャーを育てようとする金融マンが全国で幅広く活動することを願ってやみません。