山本尚利1.新刊の紹介筆者はこのたび『情報と技術を管理され続ける日本』(ビジネス社、2008年9月)を上梓しました。本著は拙稿メルマガ(ベンチャー革命およびテックベンチャー)をベースに「米国覇権の対日攻略」についてまとめ、出版したものです。なお、本著はMOT(技術経営)の視点から米国技術覇権に焦点を当てた前回の拙著『日米技術覇権戦争』(注1)の姉妹版です。両著は筆者のSRIインターナショナル(SRI、元スタンフォード大学付属研究所)における16年半(1986年より2003年まで)におよぶMOTコンサルタント経験を通じて知った戦後の日米関係の実態を明らかにしています。とりわけ一般の日本国民に見えにくい「米国覇権の対日攻略」の中身を具体的に示し、われわれ日本国民はどのように対米防衛すればよいか、そのヒントを提示しています。2.米国覇権による対日攻略ハラスメント周知のように米国は世界最強の軍事覇権国ですが、彼らは自国に脅威を与える国家(脅威国または仮想敵国)や集団(アルカイダなど)を本能的に攻略しようとする性質をもっています。直近では2003年、イラク(フセイン政権時代のイラク)を軍事的に攻略しています。過去、米国はわが国を敵国視し軍事的に攻略することに成功しました。そして1945年8月、日本は無条件降伏を余儀なくされました。2000年以上におよぶ日本の長い歴史からみれば、それはわずか60数年前のことです。このように米国は彼らが敵とみなした国家を攻略する際、一般的には火力兵器中心の軍事力(ハードパワー)を行使してきました。ところが、彼らが仮想敵国とみなした国家が技術先進国でかつ民主主義国であった場合、ハードパワーの軍事力を安易に行使することはできません。なぜなら軍事的あるいは外交的に報復される危険も高くなりますから。ところで戦後の日本は米国と日米安全保障条約を締結、日本の外交上、米国は敵国から同盟国になり今日に至っています。それでは戦後の日本は軍事同盟国米国からの攻略を免れているでしょうか。筆者の見方によれば、戦後の米国は表面的に日本と軍事同盟関係を結んでいるものの、対日攻略を決して止めてはいません。なぜなら日本の強力なMOTパワーに裏打ちされた日本の潜在的軍事技術力は彼らにとって、依然、大きな脅威だからです。別の見方をすれば、米国にとって戦後の日本が潜在的軍事脅威であるからこそ、日本との軍事同盟を必要としたといえます。さもないと、米国から原爆攻撃された日本がいつ、報復行動に打って出るかもしれないからです。なにしろ日本は真珠湾攻撃という不意打ちの前科がありますから。戦後の日本がまがりなりにも民主主義体制の先進工業国となった今、さすがの米国も対日攻略に軍事力(ハードパワー)は行使できません。そこで彼らは、情報と技術を含むソフトパワー(国民の目に見えにくい)によって、対日攻略を行ってきたとみなせます。一般の日本国民には見えにくい米国の対日攻略は米国覇権による「対日国家ハラスメント」とみなすことができます。ここでハラスメントとは「敵に悟られないように密かに攻撃すること」です(注2)。つまりこの知能作戦は、日本国民に反米感情を起こさせないばかりか、親米感情を高めつつ、水面下で巧妙に日本を攻略にするという試み(ハラスメント)だったのです。彼らは、日本国民の国民性(無防備で能天気)をしっかり研究した上で、日本国民に気付かれないよう、あの手、この手で攻めてきたのです。ちなみにハラスメントは攻撃ターゲット(ハラッシー)にこちら(ハラッサー)の正体を見破られたら成立しません。そこで、米国覇権主義者(ハラッサー)はわれわれ日本国民(ハラッシー)に証拠を見せずに攻略してきます。上記拙著は一般国民には見えにくい「米国覇権の対日攻略」の実態を明らかにすることによって、日本国民に警告を発しています。3.静かなる戦争と沈黙の兵器ネット情報によれば「静かなる戦争のための沈黙の兵器」(注3)という書があるそうです。このコンセプトを読むと、戦後日本に対する「米国覇権の対日攻略」こそ、まさにこのコンセプトの壮大な実験だったのではないかという気がします。表向き民主主義を旗印にする米国にとって、仮想敵国が米国と同様の民主主義国であった場合、さすがに大義なき軍事攻略はできません。なお彼らは、敵が共産主義をかたる一党独裁国家、あるいはテロリスト国家ならば、堂々とハードパワーの軍事攻略を仕掛けてきますが・・・。そこで民主主義を採用する仮想敵国向けに考案されたのが「沈黙の兵器」、すなわちソフトパワー(注4)による攻略(国家ハラスメント)なのです。さて筆者の所属したSRIではジェームス・オグルビー博士が1985年、経験産業(Experience Industry)論を発表していますが、その理論的背景には米国ロックフェラー財団の寄付で戦後まもなく設立された英国タヴィストック研究所(注5)の軍事プロパガンダに関する社会心理学的軍事研究成果があります(注6)。戦後、英国タヴィストック研究所の成果(ソフトパワーによる敵の無力化戦法)が、SRIなど米国の軍事研究シンクタンクに移転されています。敗戦直後の日本は、米国の占領軍司令本部(GHQ)によって一時、統治されましたが、ネット情報によればGHQは「3S政策」を戦後の日本に適用したといわれています。3SとはSports、Sex、Screen/Songを指します。米国型プロスポーツの振興、風俗産業の黙認、米国製映画・音楽の普及により、敗戦国日本国民の屈折した反米感情を快楽や欲望(経験産業の提供する感性価値)に転化させること(これぞハラスメントそのもの)を狙ったものです。つまり3S政策はまさに「沈黙の兵器」と位置づけられます。このGHQ占領政策はズバリ的中、戦後日本の芸能・文化はすっかり米国化されました。悪く言えば、すっかり堕落させられた(戦前の軍国主義日本がすっかり去勢された)ということです。さらに戦後日本の高度成長が加速するにつれて、日本国民の衣食住のライフスタイルがすっかり米国化されてしまいました。この実態は過激な表現を使えば「洗脳支配」(注7)と呼ぶことができます。2006年7月、小泉前首相はブッシュ大統領の招待で、米テネシー州メンフィスのエルビス・プレスリーの記念館グレースランドを訪問しました。このときの彼のはしゃぎ様ほど無様なものはありませんでした。プレスリーのサングラスをかけた彼のタコ踊りをブッシュ夫妻とプレスリー家族が軽蔑の眼差しでみつめているシーンが世界中に放映されました。このシーンほど郵政民営化を実現させた米国覇権主義者を高笑いさせたものはないでしょう。このシーンこそ、戦後日本が彼らの「沈黙の兵器」に完全無力化された象徴とみなせます。ちなみに、洗脳( Brainwashing )は敵国民だけでなく、自国民にも適用されます。それが軍事プロパガンダであり、自国兵士やスパイのマインド・コントロールです。2003年、ブッシュ政権によるイラク戦争開始の際にもふんだんに応用されています。4.日本国民の洗脳支配米国覇権主義者が日本国民の洗脳支配に成功すれば、米国にとって軍事的には仮想敵国の国民を無力化したと同義です。ソフトパワー・コンセプトの導入によって「敵の無力化」の定義が大きく拡大されました。近代戦争では武器で敵を殺傷するだけが「敵の無力化」ではないのです。ところで戦後の米国の寡頭勢力(米国覇権主義者の頂点に君臨する闇支配者)はマスコミやマルチメディア業界の闇支配に極めて熱心です。なぜなら軍事プロパガンダ技術が戦争のみならず、大統領選挙(寡頭勢力の利権獲得に関係する)などの政治的な世論誘導にも応用できるからです。寡頭勢力は、軍事プロパガンダ研究に多額の研究投資してきたおかげで、米国民のみならず日本国民も巧妙に洗脳支配することに成功しています。(やまもと・ひさとし)------------------------------------------------------------------------------------注1:山本尚利[2003]『日米技術覇権戦争』光文社注2:安富歩、本條晴一郎[2007]『ハラスメントは連鎖する』光文社新書注3:阿修羅『静かなる戦争のための沈黙の兵器』http://www.asyura2.com/data002.htm注4:ジョセフ・ナイ[2004]『ソフトパワー』日本経済新聞注5:ジョン・コールマン[2006]『タヴィストック洗脳研究所』成甲書房注6:山本尚利『経験産業:情報・知識産業を包含する新産業』早稲田大学ビジネススクール・レビュー、第8号、2008、日経BP注7:苫米地英人[2008]『洗脳支配』ビジネス社
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