山本尚利
昨年末、デリバティブの違法簿外取引が発覚したエンロンの倒産に続き、ワールドコムやグローバル・クロッシングやタイコーインターナショナルなど、M&Aで急成長した米国大企業の会計不正事件が続出、米国企業への投資家の信用が低下、株価の値下がりとドル売りが止まりません。
円・ドル為替相場は今年春、135円/ドルの円安でしたが、現在116円台の円高となってしまいました。筆者は、長期的円安を予想し、円貯金を相当ドルに替えていました。この先の円動向が非常に気になります。金融アナリストの予想では、8月末には円安に振れるとのこと。その理由は、そのうち米国企業会計の規制強化が打ち出されて、米国証券市場に活気が戻ってくる。一方、日本政府の抱える対国民への累積債務700兆円が減る見込みが立たない、日本経済のファンダメンタルズは依然低調である、貿易黒字は減少しており円高要因は見出せない、などなどです。しかしながら、円・ドル為替相場は高度の国家間駆け引きの結果です。円・ドルの行方は、結局誰にも皆目わからないということです。
ところで、国際関係専門家は米国が近々イラク攻撃を開始すると予想しています。戦争が始まれば、ロッキード・マーチン、レイセオン、ノースロップなどの軍事産業が潤い、戦争特需が生まれます。共和党の強い米国中南部の軍需産業地帯を中心に景気が回復するでしょう。戦争特需でドル需要が生まれて、確かにドル売りは止まるでしょう。米国政府の対外債務累積は約1000兆円、ただし純債務(債権と債務の差)は約300兆円、少なくとも、その3分の一は対日債務です。累積300〜400兆円分の対米ドル債権が日本に存在すると思います。日本政府の対国民への借金700兆円のちょうど半分に相当するドルやドル債権が日本に存在する勘定です。
日本企業が輸出で得たドルを、日銀にて円と交換します。日銀はそのドルで米国債券を購入させられます。米国連邦政府の財政投融資は、日銀や都銀など海外金融機関が購入する米国債券の発行によるドル調達によって実行されています。米国財政赤字が増え続け、日本の対米ドル債権は増える一方です。米国には郵貯のような国営銀行はないので、米国政府は、米国民の預貯金をこっそり使う術がありません。そこで、日本国民など米国外の人々の預貯金を借りている構図です。米国民は、ローリスクの預貯金をあまり好まず、ドル資産をハイリスクの証券投資しています。そのため、米国企業は大小問わず、米国民から潤沢な資金が得られました。一方、日本国民の預貯金は、国債発行による公共投資や、特殊法人の維持費、赤字補填、米国債購入などに使われていますが、国内中小企業やベンチャーに対しては、悪評高い貸し渋りという構図です。
2.米国不景気が日本に及ぼす影響
もし、米国民が、一連の企業会計不正に不信を抱き続け、証券投資に嫌気が刺し、米国の国民資産が証券から預貯金に回れば、米国の銀行は米国債の購入を増やす可能性があります。米国政府の公共投資は、道路やダムではなく、軍事力強化です。深刻な不景気に直面した米国連邦政府は景気再生の特効薬として戦争による国内景気刺激という危険な戦略を持っています。特に、現ブッシュ共和党政権はその傾向が強い。チェイニー副大統領や、ラムズフェルド国防長官などブッシュ政権の取り巻きは軍事産業と癒着している人が多いですから。米国政府は、日本を含む海外からの米国債購入と、米国国民の預
貯金からの米国債購入により、潤沢な軍事資金を調達できます。日本人が毎日満員電車に揺られて、こつこつ働き、稼いで貯めた虎の子預貯金は、日本の銀行を介して米国債購入に当てられる。
そして何時の間にかイラク攻撃ミサイルに化けるかもしれません。この際、米国は軍事支出増による財政赤字倍増には目をつぶるわけです。ドルが世界の基軸通貨であるかぎり、米国政府がどれほど財政赤字を増やそうと、ドルが崩壊することはありません。そのときは、世界の金融システムの崩壊です。それは米国のみならず、巨額のドルを保有する日本や欧州諸国にとっても大危機です。
米国政府は財政赤字が限界を超えると、ドル切り下げを行って対外借金の棒引きすることも可能です。これは1985年のプラザ合意で実際起きたことです。米ドルは250円/ドルから一挙に150円/ドルとなったのです。基軸通貨国、米国に限って、その気になれば何でもできるのです。日米政府レベルではドルも円も単なる紙のお札でしかないのです。使わなければただの紙くずです。米国政府は世界恐慌を回避するためには、何でも良いからドルという紙幣をぐるぐる回さなければならない、ということです。基軸通貨国はドルをひたすら使う。円など外国通貨との交換レートに歪が生じたら、その都度、調整・是正すればよいのです。
世界の基軸通貨ドルが通貨危機に見舞われても、ドルを守るため円は犠牲にされることがあるでしょうが、円を守るため、ドルが犠牲になることは決してないでしょう。米国は国益のためには極めて横暴となる国です。日米同時不況の悪環境では、いざと言うとき、何かにつけ日本が犠牲を強いられるのは目に見えています。その際、米国に抗議して済む問題ではありません。日米の軍事力格差は想像以上に大きい。軍事力の威圧の前に、非常時、日本は常に米国の犠牲にされる危険が高いといえます。
今後ドル切り下げは起きるでしょうか。1985年は確かに円が強すぎたのですが、2002年現在、円は決して強くない。ドル切り下げにより、実力不相応の円高は起き得ないのです。なぜなら日本の購買力が不当に上がるのは米国にとって脅威となるからです。日本はありあまるドルで世界中の資産をい占めるかもしれないからです。
3.日本はドル大国
日本は3兆ドルのドル保有大国ということができます。しかも日本の財布のポケットは郵貯を介して政府と民間がつながっています。米国では民間に巨額のドルはあれども、政府の財布はカラッポ。日本や欧州に大借金している構図です。
もしも米国政府が大増税して、ドルで日本に対する借金を返済しても、日本はそれを円に変えない限り国内でドルの使い道はない。日本国民1億2600万人が消費する石油や食糧をドルで購入しても、なお、おつりがくるからドルが3兆ドルも溜まるのです。要は、日本はドルを持て余しているのです。もてあ
ましたドルの究極の有効活用とは、ドルで米国の不動産を購入、日本人がそこに移住し、そこでドルを使うことです。3兆ドルでカリフォルニアを買収することもあながち夢ではない。1980年代後半、強い円と大量のドルを保有する日本の米国買占めの動きが表面化しました。米国人は日本人の米国乗っ取り行動に震撼したのです。
そこで、あらゆる手段で、日本の米国乗っ取り阻止戦略が取られ、そして金満日本経済はバブル発生に見舞われました。90年バブルが崩壊した後も、米国から日本へのドル流入は止まらない。米国の潜在的悪夢のシナリオとは、日本が米国にドルを武器に侵略してくることです。日本国民がドルを武器に
できることを絶対に気付かせないようにするのが米国の対日攻略の要諦なのです。今ところ、イラクが米国本土に軍事的侵略するシナリオは考えられません。米国にとってイラクは実はそれほど怖くない。真に怖いのは巨額のドル債権大国日本なのです。日本のもつ巨大ドル債権をいかに合法的にディスカウントするかが米国の対日戦略です。そのために米国は手段を選ばないでしょう。
(やまもと・ひさとし)
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