masaono777

Tech Venture/テックベンチャー

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3 4月

「東芝原発受注3兆円超:企業の命運はトップ人事で決まる」

山本尚利

1.東芝WH(ウェスティングハウス)、原発受注成功3兆円超
 2008年4月3日付け日本経済新聞にスクープ記事が掲載されました。東芝WHが米国電力会社から4基の原発(PWR:加圧水型原子炉)を1兆4000億円(主契約者WH)で受注したそうです。同報道によれば、東芝はすでに米国で2基の原発(BWR:沸騰水型原子炉)を8000億円で受注し、中国でもPWR4基(1兆円)を受注しており、合計受注残は3兆円をはるかに超えます。いずれにしてもめでたい(?)ニュースではあります。 
 さて筆者は1994年より8年間、東芝の技術系新任部長向けに技術戦略(技術経営MOTの方法論)の講師を務めたキャリアがあります。1994年当時の東芝は、原子力発電プラントをエネルギー事業本部で対応していましたが、非常に優秀な人材が豊富にいたと記憶しています。なお、東芝の原発は元々GE(General Electric)開発のBWRで東京電力が採用。筆者が1970年より86年まで勤務したIHI(石川島播磨重工業)は東芝のサブコン(サブコントラクター)として原子炉格納圧力容器を製造していました。元経団連会長の土光敏夫がIHI社長から東芝社長に転出したこともあって、BWR原発建設プロジェクトは東芝―IHIコンソーシアムで行われてきました。両社の原子力機器製造工場も横浜磯子地区に立地しています。
 東芝はGEの日本支部と思われるほど伝統的にGEとの縁が深いわけですが、2006年、GEのライバル、WHのPWR原発事業部門を6400億円(出資比率:東芝77%、IHI3%、米国ショー20%)という高値で買収しています(注1)。
 当然、GEとは円満に折り合いをつけた上でのWH買収ディールだったのでしょう。当時のWH(原発事業部門)の企業価値の市場相場は高くて2000億円といわれており、WH買収に資本参加予定だった丸紅は、WHが相場の3倍以上の高値となったためか、資本参加をドタキャンしています。

2.大正解か? 東芝西田社長の抜擢人事
 さて上記の日経スクープ報道が事実なら、2006年のWH買収で大勝負に出た東芝西田厚聰社長の読みはズバリ的中したことになります。同社長は、2008年2月、高精細のHD-DVD事業から潔く撤退しており、証券市場の専門家筋から高い評価を受けました(注2)。日本企業をコントロールしようとする米国覇権主義者は特定の日本企業に覇権技術が集中するのを嫌ったとも受け取れます。つまり東芝のWH買収を認める代わり、DVDはソニーに譲れということです。
 ところで西田社長のように戦略事業からの撤退発表で男を挙げる社長も珍しいですが、同社長はこれまでのサラリーマン社長とは一味違う、日本人離れした大物社長にみえます。西田社長は東芝のイラン・テヘラン事務所にローカル採用された人物であり、東芝の保守本流を歩んできたエリートではありません。その同氏を思い切って社長に抜擢した東芝経営陣はたいしたものです。
 ちなみにかつての東芝は上記の土光社長人事のように、格下企業(IHIには失礼ながら)からでも社長を受け入れたり、あるいは筆者のような格下IHI出身の講師を受け入れた実績があります。普通の伝統的日本企業なら一般的に、ローカル採用されたプロパー人材がどれほど優秀で、どれほどの功績を挙げても、本社の社長まで登りつめることは到底、考えられません。たとえ、前社長が後継者として、
そのような人材を抜擢しようとしても、社内の反対が強くて、結局、実現しないのが常です。
 西田社長就任は10年前の東芝(あるいは現在の一般的日本企業)では想像もつかない人事です。かつて、総合電機会社のケミカル事業部門という傍流から抜擢されたGEの名社長、ジャック・ウェルチを彷彿とさせます。伝統的に東芝幹部はGEの経営精神に強く影響されているので、このような抜擢人事を容認する企業体質が醸成されていたと思われます。筆者も東芝のMOT講師時代、日本とまったく異なる米国流のトップ人材昇進基準を紹介していました。ちなみにポスト福井の日銀総裁人事で、二度までも、財務省(元大蔵省)事務次官経験者を推した財務省体質(注3)とは対極を成します。

3.東芝の米原発受注のリスク
 東芝の米原発受注1.4兆円というおめでたいニュースに水をさすようで申し訳ありませんが、本ニュースは手放しで喜べない面があります。東芝は、おそらく覚悟の上で、米国の国家エネルギー戦略転換という大きなお釈迦様の掌に取り込まれたとみなせます。筆者には、すべてが米国覇権主義者のシナリオどおりに進んでいるようにみえます。
 2008年4月3日、東芝の1.4兆円の米原発大型受注ニュースとアル・ゴア元米副大統領の300億円の地球環境キャンペーン発表ニュースは、すべて21世紀の米国家エネルギー戦略の一環とみなすべきでしょう。また昨今の原油1バーレル100ドル突破シナリオも決して偶然の産物ではありません(注4)。きわめて戦略的で計画的な事象のようにみえます。
 筆者は日本の電力業界の仕事で、1993年から2001年まで続いたビル・クリントン民主党政権時代の米国電力事情を長期に渡って調査した経験を有しています。90年代の米国は原発を廃止する方向に動いていました。確かニューヨーク州ロングアイランド(富裕層住宅地)では新設の原発が地域住民の反対で運転しないまま廃止されたと記憶しています。多くの米電力会社は、所有する原発の売却に走り、一方、フィラデルフィアの電力会社のように全米に分散する原発を安値で買いあさる、あまのじゃく的電力会社もありました。WHの立地するピッツバーグのWH工場はほとんど閉鎖か、売却の運命でした。
 その間、ブッシュ政権誕生に功績のあったエンロンなどは、天然ガスを安く売りさばき、米国の原発市場を苦境に陥れていました。米国覇権主義者は、2001年、ブッシュ政権誕生とともに、国家エネルギー戦略を大きく転換しました。用意周到に原油高騰シナリオと原発復活シナリオ(今後20年で30基の原発建設)が計画され、今日に至っています。筆者のみるところ、日本企業である東芝にWHを買収
させた理由は、米国より進んだ日本の原発技術の取り込みと奪回ではないかとにらんでいます。原発建設工事において彼らは、当面、東芝、日立、三菱重工など日本企業を下請け化するつもりでしょう。
 そして近未来、用済みとなったら、日本企業はポイ捨てされるリスクがあります。さもなければ、日本の原発技術をさんざん搾り取った挙句、訴訟攻撃を企画されて、最後は身ぐるみ剥がされるという最悪シナリオすらも想定されます。

4.米原発の建設資金の調達方法は?
 上記の日経記事には、米電力会社は原発建設資金をどのように調達しようとしているかが報道されていません。この点が非常に気になります。日本の東電は世界最大の電力会社です。電力規制緩和の進んだ米国にはこれほど大きい電力会社はありませんし、資金調達力も東電並みとは行かないでしょう。東芝は三井財閥系企業ですが、三井住友銀行など日本の金融機関からの融資が期待されているかもしれません。現在、米国の国際金融資本は、サブプライムローンの不良債権化で、軒並み大変な危機にあります。そのため投資回収できるかどうか不透明でリスクの高い原発プロジェクトに嬉々として融資するとはとても考えられません。
 一般論では、海外の大型プラント案件は東芝に限らず、日本企業にとって極めてハイリスクです。失敗すれば、巨額の損失を被ります。米国市場のプラント案件は、中東市場のプラント案件に比べて、一見、カントリーリスクは低いようにみえますが、ドル基軸通貨危機に直面している昨今の米国市場のカントリーリスクは結構高いと思われます。しかしながら、日本企業がグローバル市場で勝ち残るために、カントリーリスクを恐れてはいられないのも確かです。
(やまもと・ひさとし)

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注1:ベンチャー革命No.186『東芝のWH買収:高い買い物か?』2006年2月9日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr186.htm
注2:ベンチャー革命No.253『東芝のHD-DVD撤退:織り込み済みのシナリオ』2008年2月17日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr253.htm
注3:ベンチャー革命No.255『円高、イラン戦争と関係する?日銀総裁人事の行方』2008年3月16日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm
注4:ベンチャー革命No.252『石油・穀物・防衛の国家戦略見直し急務』2008年1月27日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr252.htm

3 4月

スローンとドラッカー

小野 正人
 
ご存知のとおり、ゼネラル・モータースが苦境に陥っています。
GMといえば、今はガソリンを食うばかりでアメリカン・フードみたいな味気の無い車ばかりどんどん作る巨大自動車メーカーという印象で語られますが、昔は凄い会社でした。 ウィリアム・デュラント(彼も馬車製造会社を一代で築いて20世紀初頭に国内のトップメーカーにまで押し上げ、その後1904年に倒産の淵にあったビュイック・モーター・カンパニーの経営権を掌握して4年後にはアメリカを代表する自動車メーカーに再生した偉人。今ならカルロス・ゴーンか。)によって組織され、後にアルフレッド・スローンによって経営基盤が確立され、フォードを抜いて世界最大のメーカーとなりました。

GM経営方針は「どんな予算でも、どんな目的でも」。GMは複数のブランドを所有し、北米では最下段にシボレー(1990年にはサターンも登場)、最上段にキャディラックを置いて、巧妙なマーケティングと、それに直結したスタイリング戦略で衆目を引き続け、業界シェアナンバー・ワンであり続けました。まさに「デトロイトの巨人」、アメ車といえばGMでした。
しかし、創成期のGMには苦難がありました。創業者のデュラントは私財を投入して事業拡大に邁進しすぎていた。そこに来て、アメリカが不況に突入すると、デュラントの個人資産の方が持たなくなってきた。デュポンが救済に乗り出すとともに、起業家デュラントは社長退任へと追い込まれたのです。

アルフレッド・スローンの名著「GMとともに」を読むと、以下がポイントだったと思われます。
・デュラントは多品種量産型の自動車会社を考えていた。
・デュラントは技術革新で経営権を持った。
・しかし、会社は大きくなっても、経営や管理については何もなかった。
・結局、景気の変動に左右されて、会社が危機に陥った。

そして、この危機を克服する運命的な場面に、スローンが経営者として登場し、今では世界経営史上一番のコンサルタントといわれるピーター・ドラッカーが助言するという(諸葛孔明のような軍師だったようです)コンビを組み、その後GMの経営技術は非常に進歩していったわけです。 起業家の退場、そしてその後は実務家の登場です。現代であれば先端ベンチャー企業が課題を乗り越えて大発展する姿を見るようです。
 
17 7月

こらむ「円・ドルの行方」

山本尚利

1.米国のドル売りは続くか
 
昨年末、デリバティブの違法簿外取引が発覚したエンロンの倒産に続き、ワールドコムやグローバル・クロッシングやタイコーインターナショナルなど、M&Aで急成長した米国大企業の会計不正事件が続出、米国企業への投資家の信用が低下、株価の値下がりとドル売りが止まりません。  円・ドル為替相場は今年春、135円/ドルの円安でしたが、現在116円台の円高となってしまいました。筆者は、長期的円安を予想し、円貯金を相当ドルに替えていました。この先の円動向が非常に気になります。金融アナリストの予想では、8月末には円安に振れるとのこと。その理由は、そのうち米国企業会計の規制強化が打ち出されて、米国証券市場に活気が戻ってくる。一方、日本政府の抱える対国民への累積債務700兆円が減る見込みが立たない、日本経済のファンダメンタルズは依然低調である、貿易黒字は減少しており円高要因は見出せない、などなどです。しかしながら、円・ドル為替相場は高度の国家間駆け引きの結果です。円・ドルの行方は、結局誰にも皆目わからないということです。  ところで、国際関係専門家は米国が近々イラク攻撃を開始すると予想しています。戦争が始まれば、ロッキード・マーチン、レイセオン、ノースロップなどの軍事産業が潤い、戦争特需が生まれます。共和党の強い米国中南部の軍需産業地帯を中心に景気が回復するでしょう。戦争特需でドル需要が生まれて、確かにドル売りは止まるでしょう。米国政府の対外債務累積は約1000兆円、ただし純債務(債権と債務の差)は約300兆円、少なくとも、その3分の一は対日債務です。累積300〜400兆円分の対米ドル債権が日本に存在すると思います。日本政府の対国民への借金700兆円のちょうど半分に相当するドルやドル債権が日本に存在する勘定です。  日本企業が輸出で得たドルを、日銀にて円と交換します。日銀はそのドルで米国債券を購入させられます。米国連邦政府の財政投融資は、日銀や都銀など海外金融機関が購入する米国債券の発行によるドル調達によって実行されています。米国財政赤字が増え続け、日本の対米ドル債権は増える一方です。米国には郵貯のような国営銀行はないので、米国政府は、米国民の預貯金をこっそり使う術がありません。そこで、日本国民など米国外の人々の預貯金を借りている構図です。米国民は、ローリスクの預貯金をあまり好まず、ドル資産をハイリスクの証券投資しています。そのため、米国企業は大小問わず、米国民から潤沢な資金が得られました。一方、日本国民の預貯金は、国債発行による公共投資や、特殊法人の維持費、赤字補填、米国債購入などに使われていますが、国内中小企業やベンチャーに対しては、悪評高い貸し渋りという構図です。

2.米国不景気が日本に及ぼす影響  
もし、米国民が、一連の企業会計不正に不信を抱き続け、証券投資に嫌気が刺し、米国の国民資産が証券から預貯金に回れば、米国の銀行は米国債の購入を増やす可能性があります。米国政府の公共投資は、道路やダムではなく、軍事力強化です。深刻な不景気に直面した米国連邦政府は景気再生の特効薬として戦争による国内景気刺激という危険な戦略を持っています。特に、現ブッシュ共和党政権はその傾向が強い。チェイニー副大統領や、ラムズフェルド国防長官などブッシュ政権の取り巻きは軍事産業と癒着している人が多いですから。米国政府は、日本を含む海外からの米国債購入と、米国国民の預 貯金からの米国債購入により、潤沢な軍事資金を調達できます。日本人が毎日満員電車に揺られて、こつこつ働き、稼いで貯めた虎の子預貯金は、日本の銀行を介して米国債購入に当てられる。 そして何時の間にかイラク攻撃ミサイルに化けるかもしれません。この際、米国は軍事支出増による財政赤字倍増には目をつぶるわけです。ドルが世界の基軸通貨であるかぎり、米国政府がどれほど財政赤字を増やそうと、ドルが崩壊することはありません。そのときは、世界の金融システムの崩壊です。それは米国のみならず、巨額のドルを保有する日本や欧州諸国にとっても大危機です。  米国政府は財政赤字が限界を超えると、ドル切り下げを行って対外借金の棒引きすることも可能です。これは1985年のプラザ合意で実際起きたことです。米ドルは250円/ドルから一挙に150円/ドルとなったのです。基軸通貨国、米国に限って、その気になれば何でもできるのです。日米政府レベルではドルも円も単なる紙のお札でしかないのです。使わなければただの紙くずです。米国政府は世界恐慌を回避するためには、何でも良いからドルという紙幣をぐるぐる回さなければならない、ということです。基軸通貨国はドルをひたすら使う。円など外国通貨との交換レートに歪が生じたら、その都度、調整・是正すればよいのです。  世界の基軸通貨ドルが通貨危機に見舞われても、ドルを守るため円は犠牲にされることがあるでしょうが、円を守るため、ドルが犠牲になることは決してないでしょう。米国は国益のためには極めて横暴となる国です。日米同時不況の悪環境では、いざと言うとき、何かにつけ日本が犠牲を強いられるのは目に見えています。その際、米国に抗議して済む問題ではありません。日米の軍事力格差は想像以上に大きい。軍事力の威圧の前に、非常時、日本は常に米国の犠牲にされる危険が高いといえます。  今後ドル切り下げは起きるでしょうか。1985年は確かに円が強すぎたのですが、2002年現在、円は決して強くない。ドル切り下げにより、実力不相応の円高は起き得ないのです。なぜなら日本の購買力が不当に上がるのは米国にとって脅威となるからです。日本はありあまるドルで世界中の資産をい占めるかもしれないからです。

3.日本はドル大国  
日本は3兆ドルのドル保有大国ということができます。しかも日本の財布のポケットは郵貯を介して政府と民間がつながっています。米国では民間に巨額のドルはあれども、政府の財布はカラッポ。日本や欧州に大借金している構図です。 もしも米国政府が大増税して、ドルで日本に対する借金を返済しても、日本はそれを円に変えない限り国内でドルの使い道はない。日本国民1億2600万人が消費する石油や食糧をドルで購入しても、なお、おつりがくるからドルが3兆ドルも溜まるのです。要は、日本はドルを持て余しているのです。もてあ ましたドルの究極の有効活用とは、ドルで米国の不動産を購入、日本人がそこに移住し、そこでドルを使うことです。3兆ドルでカリフォルニアを買収することもあながち夢ではない。1980年代後半、強い円と大量のドルを保有する日本の米国買占めの動きが表面化しました。米国人は日本人の米国乗っ取り行動に震撼したのです。 そこで、あらゆる手段で、日本の米国乗っ取り阻止戦略が取られ、そして金満日本経済はバブル発生に見舞われました。90年バブルが崩壊した後も、米国から日本へのドル流入は止まらない。米国の潜在的悪夢のシナリオとは、日本が米国にドルを武器に侵略してくることです。日本国民がドルを武器に できることを絶対に気付かせないようにするのが米国の対日攻略の要諦なのです。今ところ、イラクが米国本土に軍事的侵略するシナリオは考えられません。米国にとってイラクは実はそれほど怖くない。真に怖いのは巨額のドル債権大国日本なのです。日本のもつ巨大ドル債権をいかに合法的にディスカウントするかが米国の対日戦略です。そのために米国は手段を選ばないでしょう。 
(やまもと・ひさとし)
11 6月

こらむ「日本転落の歴史」

山本尚利

1.日本経済崩壊とは?
 元東大教授の経済学者、公文俊平氏は2005年日本経済崩壊を予言しています。(公文俊平「文明の進化と情報化」2002年1月25日、Glocom)(末尾)
日本経済の栄枯盛衰の歴史は、世界史の歴史的転回に深く影響されていると言えます。日本経済の崩壊が、次世代への創造的破壊とみなせるならば、2005年の崩壊は、「日本の夜明け」と言いかえることができます。ところで日本経済が崩壊するということは具体的に何を意味するのでしょうか。1991年、旧ソ連の崩壊を思い出してみると、ソ連共産党政府が求心力を失って空中分解し、いくつかの独立国が新たに生まれました。当時国営銀行の取りつけ騒ぎが起きていました。銀行が閉鎖されて預金者が大騒ぎしていたニュースシーンを思い出します。旧ソ連の公務員は給与が支払われなくなり、アングラ経済がはびこっていました。
 2002年5月30日、金融商品格付け機関のムーディーズは日本国債格付けを2段階引き下げ(ランクA2へ引き下げ)、先進7ヶ国の国債信用レベルからはるか下の単独最下位となりました。ムーディーズによると、日本は先進国としては「前人未踏」の領域に踏みこんでいるとのことです。「前人未踏」とは旧ソ連末期のような経済状態を意味しているのでしょうか。具体的には、多数の民間銀行が国有化され、国有化銀行や郵便貯金窓口がある日突然、閉鎖され、預金引出し不能といったシーンが連想されます。ソ連やアルゼンチンですでに起きている現実ですから十分想像できます。銀行機能麻痺により、企業間の決済が大混乱し、企業倒産が続出する。企業は社員に給与を支払えなくなる。個人預金はおろせない。遂にはスーパー襲撃、日用品の買占め・強奪、などの民衆暴動シーンが連想されます。日用品買占め現象は、70年代の石油危機のとき、日本でも発生しました。このようなパニックを防ごうとすれば、日本政府が円を増刷して、銀行に供給していけばよいのでしょうが、今度は物価が高騰するのでしょう。円は暴落、ドルを持っている人が得をする。そこで筆者はせっせとドル預金をやっています。このような自国通貨暴落現象は、つい最近も1998年東南アジア各国で実際に起きたことです。
日本政府が、日本国民の郵貯原資の財投や国債販売で抱えている対国民への国家債務は700兆円と言われていますが、見方を変えれば、過去に徴収しておくべき税金徴収の執行猶予とみなせます。(浦島太郎が玉手箱を開ける直前に相当、開けたとたんBack to the Future)これを徴収していたら、日本が世界一の高税天国(国民には地獄)となります。すなわち日本政府は他の先進国に比べて圧倒的に国家運営能力が劣っている事実が露呈することを意味します。
日本政府が過去に実施した公共投資が正鵠を射ていたならば、その投資リターンによって、他の先進国並にGDP成長率(2?3%)が達成されて、税の自然増収によって、700兆円の国家債務が減らせたはずでした。ところが現実には国家債務は減少するどころか、まだ増え続けています。
 また、国民の預金利子がほとんどゼロに押えられているのは、見方を変えれば増税と同じことです。増税をスローガンに掲げると、政治家は落選するので、あの手この手で、国民所得の実質国庫移転(悪く言えば国家による国民所得のスマートな収奪)が行われているのです。ところが、これほどまで、国民に痛みを押し付け、国家運営がぼろぼろに失敗していても、なお保守政権党を支持する人が存在し、政権交代を望まない国民が少なからず存在しています。この不思議さに欧米人は首をかしげています。日本人はなんてバカなのだろう。一体全体何を考えているのか、それとも思考停止状態(Apathy)か?

2.日本国民に危機感はないのか?

 日本通の欧米人知識層から見て、到底日本国民を理解できない疑問点があります。その枕詞は「日本人は世界第二位の経済先進国となる能力を有しているはずなのに・・・」です。
疑問1:これほど散々たる日本政権党の大失政が起きた。にもかかわらず、政権交代がなぜ起きないのか?日本は、隣の北朝鮮と違って立派な民主主義国(?)であり、国民には投票権があり、政権交代させる権利を有しているのに。日本人はなぜこれほど問題解決能力がないのか?しかるにGDP世界第二位とは。疑問2:700兆円もの天文学的国家債務を抱えた。にもかかわらず日本国債がなぜ、なお国内で売れるのか、また、特殊法人の膨大な不良債権を負わされている国営金融機関である郵便貯金になぜ、これほど人気があるのか。国民多数派はなぜ円を売らないのか、すなわち、円のキャピタルフライトはなぜ起きないのか。日本人はなぜこれほど経済音痴なのか?
 最近のスイス・ビジネススクールIMD国際競争力ランキングで日本が30位、ムーディーズの日本国債格付けが先進国最低などの評価は、その根底に、日本国民の価値観に対する深刻なる「懐疑」が存在すると筆者はみます。一方、西欧人の価値観が理解できない日本指導層は、西欧人は日本を不当に過少評価していると非難するでしょう。西欧人の対日本評価は、統計的数値評価の問題を超越しています。内外価値観差(ドル・円為替内外価格差のようなもの)の問題です。上記の西欧人の疑問の裏に潜むのは、日本人は何と言う経済音痴、何と言う愚民なのだろうかという侮蔑です。にもかかわらず、日本は世界第二位のGDPを誇る経済大国である、という現実とどうしても整合性がとれないのです。つまり西欧的合理性で説明がつかないのです。確かに海外旅行する日本人観光客の多くはどうみても賢そうに見えないのは否めませんが(笑)。

3.日本転落の歴史

 経済産業省の現役官僚、斎藤健著「転落の歴史に何を見るか」(ちくま新書)は90年代初頭におけるIMDランキング世界一から、2002年、30位まで転落した日本という国家の不可思議性解明に挑戦している力作です。著者の立場上、直近の日本国家転落現象への言及を避け、あえて奉天会戦(1905年)からノモンハン事件(1939年)までの34年間の転落の原因分析がなされています。もちろん、両者の転落原因における本質的アナロジーの存在を前提にして議論されています。最近の日本半導体産業転落の歴史にも、同根のアナロジーが潜むと筆者は見ています。ところで日本は世界経済の中で、孤立的に勝手に成長し、勝手に転落することはできません。かならず、競争相手国が存在し、日本の転落はそれらの国々との国際競争の相対世界での出来事です。司馬遼太郎も山本七平も野中郁次郎も斎藤健氏も日本の度重なる転落問題の原因分析(失敗の本質)に四苦八苦されているようですが、日本企業在籍16年、米国企業在籍16年の異文化経験を有する筆者からみると、この手の原因分析にはそれほど難儀しません。「日本人とは何か」を知るには、一言「敵を知る」ことです。そのためには敵の懐に深く入ること、そして敵側から日本をながめること、これがベスト・プラクティスです。筆者の故郷、長州藩フューチャリスト、吉田松陰が、切腹覚悟で黒船乗船、渡米決行に挑んだのはそのためです。筆者は彼の怨念を晴
らすため、外資系に雇われ、この16年間に渡米を70回決行しました。(お金を出してくれたお客さまにひたすら感謝です。1回出張平均100万円、都合7000万円の自己投資に相当します。)
 さて、日本人は平均的にみて潜在能力も知能も高いからこそ、現在世界第二位のGDPを達成しています。従ってけっして愚民ではありません。この問題は親日的米国人事業家のビル・トッテン氏のHPでご覧ください。(彼は在日米国人でありながら日本に同化するよう努力しています。また独特の米国観の持ち主です。)しかし、日本人は国際競合分析(ベンチマーキング)能力に弱いという遺伝的欠陥を有するのです。島国のためかどうかはわかりませんが、西欧人の価値観が十分に理解できないのです。西欧人価値観を知るには、その異文化を肌で経験するしかない。(ただし在外日本拠点に勤務しても効果のないことは外務省官僚が証明済み) 筆者からみると日本人は見えざる敵(Predator)の攻略に全く無防備なことが多い。相手を自分と同じお人好しと見てしまう。
「日本人=底抜けのお人好し=外敵に攻略される=転落させられる運命」という転落パターンが描けます。直近の日本転落原因は米国にあります。お人好し日本人は見えざるPredator(外敵)のスマートな攻略によって、戦略的にかつスマートに転落させられたにもかかわらず、全く被害者意識に乏しく、なぜ転落したのだと真剣に悩んでしまう。また前述の、西欧人の根本的疑問(日本人は愚民に見えるのになぜ経済大国となれたのか)に対する答えは、日本国民は、底抜けにお人好しで、外敵を疑う能力はおろか国家を疑う能力にも欠けるから愚民にみえるが、元来知能は高いのです。また、底抜けのお人好し日本国民は、一見危機感が薄弱(脳天気)に見えるため、やたら啓蒙的箴言する人も多い昨今です。確かにぬるま湯天国に浸っている人も少なからず存在します(笑)。
それもこれも一切含めて筆者は、日本国民の多くは運命受容型国民(閉鎖的極楽浄土を夢見る究極の楽観主義者、浦島太郎)とみています。この点は西欧人とも一部のアジア人とも決定的に異なります。だから日本人は外敵攻略による被害も、政治家や官僚の人為的大失敗による被害も、地震などの自然災害による被害もすべて同列に東洋的諦念(Resignation)で処理するという驚くべき稀有の能力を有しているのです。全ての運命を「しかたがない」(Uncontrollable)で乗り切るのです。(ただし、この特性は時に、焼け跡からでも芽吹く雑草のような底無しの「強さ」に転化します。)西欧人には到底理解できないし、不気味な異星人、すなわち「攻略の対象」に映ることでしょう。
 日本人はまたシナリオ戦略発想が欠落しています。運命(自然の摂理)に逆らってもしかたがないと心の片隅で信じています。明日死ぬかもしれないが、それは「しかたない」ことという運命論者(Kamikaze玉砕美学に通じる)です。

ところが西欧人は、運命は自分で切り開くのことを美学(ベンチャーの原点でもある)としています。明日殺されるかもしれないのなら、それに備えて万全の準備をしておこうと考えるようです。(ゴルバチョフやビン・ラディンの遺言ビデオなど)さて筆者が16年間追求している「企業の経営戦略論・技術戦略論」とは西欧人のシナリオ戦略発想を基本としています。企業競争の勝敗運命はリーダー采配によりControllable(制御可能)であることを前提としています。そこで西欧の運命開拓型指導層あるいは、欧米価値観信者の日本人からみると、知能は高いが故の運命平伏型日本人の指導層が途轍もなく無知無能に見えてしまいます。(みずほ銀行システム障害事件を連想)事実、攻略に弱いのでアッサリ転落させられてしまうのでしょう。筆者はCATVのアニマルチャネルをよく見ます。ライオンに狙われるような、おいしそうなシカは、まず首を噛まれて窒息死させられますが、その昇天した表情は不思議と実に穏やかなのです。
(やまもと・ひさとし)
4 6月

こらむ「日本夜明けの兆候か」

山本尚利

1.高額納税者の変遷
 2002年5月16日付、日経新聞夕刊に、高額納税者トップ100人の所得内訳の歴史が載っています。1991年度は86%が土地譲渡所得、12%が株売却益であり、なんと合計98%が労所得者という内訳でした。ところが2001年度は土地が14%、株が27%、ストックオプョン7%、残り52%がその他(事業所得者など)です。
 この10年は「失われた10年」とよく言われますが、高額納税者特性に関する限り「正常化の10年」と言えます。2001年度高額納税者は、新興事業家やベンチャー創業者が多いのが特徴です。これはすばらしいことです。土地長者がトップランキングされるより、よほど健全な現象です。日本の金融機関は毎年100兆円規模の不良債権に悩まされてきましたが、他方80年代、運良く巨額の不労所得に恵まれた日本人(都市近郊農家など)も大勢存在します。日本の不動産価値や株価は大幅に下がったものの、国民預貯金が日本から消えてなくなったわけではありません。国民預貯金1470兆円マイナス国家債務693兆円イコール777兆円は確実に日本に存在します。幸い対外債務もありません。対外債務超過のアルゼンチンと違い日本はまだ一縷の望みはあります。
 2001年度高額納税者ランキングを見ていて疑問が湧いてきました。これほど新興事業家やベンチャー創業者の成功事例が多発しているのに、なぜ日本の景気が上向かないのかと。それともこの変化の兆候は数年後に出てくるのかと。もしそうなら、新興事業家主流の高額納税者番付は明るい兆候かと希望が湧いてきます。米国では、ビル・ゲイツやジム・クラークのようなハイテクベンチャー成功者が多発しているのに、日本では消費者金融やパチンコなど、ニッチマーケットの成功事例が多いという特徴が見られますが、この際贅沢は言いません。日本再生にはとにかく成功ベンチャーの多発が必要です。

2.今の大企業経営者は何している?
 1970年代は松下幸之助とかブリヂストンの石橋家とか、大正製薬の上原家など大企業のオーナーが所得番付の上位にあるのが通例でした。当時の高額所得者の多くは日本の大企業社長でしたが、総じてたたきあげのベンチャー創業者であり、功成り遂げて保有自社株の配当所得で長者番付常連となっていました。戦後の日本とは、丁稚奉公からがんばれば誰でも日本一の大金持ちになれる「機会均等の平和的民主主義国」であるとみんな信じていました。そして松下幸之助や本田宗一郎に代表される「健全なサクセス・ストーリー」が筆者と同世代の若者を強く刺激していました。ところが80年代の高額所得者は、企業オーナーから不動産王に移ってしまいました。この頃、一生まじめに働いても、ちっぽけな一戸建てマイホームすら買えない社会となってしまいました。80年代日本企業の多くはまだ過去の余韻で絶好調でしたが、そこで働くサラリーマンは既に重い住宅ローンに苦しめられていたわけです。ローンの重圧で遮ニ無ニ働かざるを得なかったと言った方が正しい。その結果、90年代初頭、日本は経済大国(スイス・ビジネススクールIMD国際競争力ランキング世界一)となり、一時世界中から垂涎の的となりました。ところがその頃すでに、日本は深刻な病魔に襲われていたのです。サラリーマンはとっくに疲弊し切っていたのです。
 このとき、大規模な経営者世代交代があれば、今のIMDランキングは30位よりマシだったでしょう。筆者はその頃日経新聞産業部に行って経営者世代交代のキャンペーンをするよう訴えたことがありますが、無視されました。ところで2002年現在、高額納税者のトップランキングに一流大企業社長が載ることはほとんどありません。現在の日本の大企業サラリーマン社長は一様に元気がなく、自信がなさそうです。不祥事も頻発し始めました。一部を除き日本企業のブランド力も落ちる一方です。それに比して現在の高額納税者ランキングに載る事業家の多くは、失礼ながら学校秀才ではなさそうです。どちらかと言えば、裏街道で成功した努力の人たちのように見えます。反対に学校秀才の巣窟である中央官庁や護送船団大企業の幹部は「無様の連続」です。皮肉にもなんと鮮やかな対比を示していることでしょうか。何はともあれ、これは将来の日本にとって非常に好ましい現象です。日本の若者は今、貴重なベンチマーキングを行うことができます。彼等は「熾烈なる受験勉強、ブランド大学卒、ブランド官庁あるいはブランド企業の高給サラリーマン」という既成の人生シナリオの抜本的見直しを迫られているのです。2001年度高額納税者ランキングは如実にその回答を突き付けています。

3.囚人のジレンマ

 最近の政官業における日本指導層のあまりの「無様さ」を見ていると、逆説的ですが、日本に明るい希望が湧いてきたと痛感(?)します。彼等は実態を露呈することによって日本の若者に強烈な意識改革を迫っているのです。信じられないほど、すばらしい反面教師を演じてくれています。長い事エリートと崇められてきた人達は、人事権だけはやたら振りまわすくせに、自己責任リスクからは逃げて逃げて逃げまくり、自分だけ救われよう救われようと、もがけばもがくほど底無し沼に嵌っていったのです。まさに囚人のジレンマそのものです。端からみていると滑稽なくらいです。しつこいほどのマスコミの報道は、多くの若手秀才が真剣に目指す人生ゴールの延長線上に何が待っているかを如実に見せてくれているわけです。
 最近のTVニュースの映像は凄い。毎日しきりに言い訳する日本の伝統エリート(?)の顔と、欧米で活躍するプロスポーツ選手の顔、そしてアジアの若者に熱狂的に支持される日本の歌姫の顔を連日比較して見せてくれます。現実を言えば日本の伝統エリートはかつて世界一と言われた日本の国際ブランド格付けを著しく傷つけるばかりです。そのせいでIMDランキングが瞬く間に1位から30位まで下がってしまいました。それを必死で挽回しているのは、イチローであり、浜崎あゆみなど国際化した日本の若手プロ成功者です。日本の小学生がプロ野球選手やプロ歌手に憧れるのは無理もありません。子供なりにプロとアマ(サラリーマン)の格差を敏感に嗅ぎ取っています。一昨年も日本のプロサッカー選手の中田(当時在イタリア)は、イタリアを訪問した森首相との会見の席上で首相に媚びを売るでもなく毅然としていました。(首相?それがどうした、So What? という態度)また最近日本を訪問したブッシュ大統領と会見した宇多田ヒカルの堂々とした応対。(ちょっと病気したら3000万件のHPアクセスに自民党議員も仰天)それに比べ昨年キャンプデービッドに招待された小泉首相のなんとぎこちない態度と比べても、日本の未来がクッキリ見えてきます。一体全体、どちらが本物の国益外交しているのかと言いたい!。
 昨今、日本の国家ブランド価値を引きずり落とす事件の頻発で、その国益損失は図りしれません。(30位よりまだ堕落するのか?)結局はトヨタやホンダやソニーなどの貴重なる国際ブランド価値をも、随伴的に下げることにつながります。幸か不幸か欧米の子供たちはトヨタやホンダやソニーが日本ブランドであることすら知らないようですが、とにかく、日本のブランド価値の損失は非常に痛い。日本の国際ブランド企業の幹部は連名で何らかの抗議意思表示を行うべきです。日本人旅行者が外国のホテルでぶっきらぼうに応対されたり、レストランで隅のテーブルに案内されるくらいはまだ我慢しますから。
(やまもと・ひさとし)
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