masaono777

Tech Venture/テックベンチャー

起業家、エンジニア、投資家、支援者が、ハイテク・アントレプレナーシップを考える情報ネットワーク。

18 9月

「情報と技術を管理され続ける日本」

山本尚利
1.新刊の紹介
 筆者はこのたび『情報と技術を管理され続ける日本』(ビジネス社、2008年9月)を上梓しました。本著は拙稿メルマガ(ベンチャー革命およびテックベンチャー)をベースに「米国覇権の対日攻略」についてまとめ、出版したものです。なお、本著はMOT(技術経営)の視点から米国技術覇権に焦点を当てた前回の拙著『日米技術覇権戦争』(注1)の姉妹版です。両著は筆者のSRIインターナショナル(SRI、元スタンフォード大学付属研究所)における16年半(1986年より2003年まで)におよぶMOTコンサルタント経験を通じて知った戦後の日米関係の実態を明らかにしています。とりわけ一般の日本国民に見えにくい「米国覇権の対日攻略」の中身を具体的に示し、われわれ日本国民はどのように対米防衛すればよいか、そのヒントを提示しています。

2.米国覇権による対日攻略ハラスメント
 周知のように米国は世界最強の軍事覇権国ですが、彼らは自国に脅威を与える国家(脅威国または仮想敵国)や集団(アルカイダなど)を本能的に攻略しようとする性質をもっています。直近では2003年、イラク(フセイン政権時代のイラク)を軍事的に攻略しています。過去、米国はわが国を敵国視し軍事的に攻略することに成功しました。そして1945年8月、日本は無条件降伏を余儀なくされました。2000年以上におよぶ日本の長い歴史からみれば、それはわずか60数年前のことです。このように米国は彼らが敵とみなした国家を攻略する際、一般的には火力兵器中心の軍事力(ハードパワー)を行使してきました。ところが、彼らが仮想敵国とみなした国家が技術先進国でかつ民主主義国であった場合、ハードパワーの軍事力を安易に行使することはできません。なぜなら軍事的あるいは外交的に報復される危険も高くなりますから。
ところで戦後の日本は米国と日米安全保障条約を締結、日本の外交上、米国は敵国から同盟国になり今日に至っています。それでは戦後の日本は軍事同盟国米国からの攻略を免れているでしょうか。筆者の見方によれば、戦後の米国は表面的に日本と軍事同盟関係を結んでいるものの、対日攻略を決して止めてはいません。なぜなら日本の強力なMOTパワーに裏打ちされた日本の潜在的軍事技術力は彼らにとって、依然、大きな脅威だからです。別の見方をすれば、米国にとって戦後の日本が潜在的軍事脅威であるからこそ、日本との軍事同盟を必要としたといえます。さもないと、米国から原爆攻撃された日本がいつ、報復行動に打って出るかもしれないからです。なにしろ日本は真珠湾攻撃という不意打ちの前科がありますから。
戦後の日本がまがりなりにも民主主義体制の先進工業国となった今、さすがの米国も対日攻略に軍事力(ハードパワー)は行使できません。そこで彼らは、情報と技術を含むソフトパワー(国民の目に見えにくい)によって、対日攻略を行ってきたとみなせます。一般の日本国民には見えにくい米国の対日攻略は米国覇権による「対日国家ハラスメント」とみなすことができます。ここでハラスメントとは「敵に悟られないように密かに攻撃すること」です(注2)。つまりこの知能作戦は、日本国民に反米感情を起こさせないばかりか、親米感情を高めつつ、水面下で巧妙に日本を攻略にするという試み(ハラスメント)だったのです。彼らは、日本国民の国民性(無防備で能天気)をしっかり研究した上で、日本国民に気付かれないよう、あの手、この手で攻めてきたのです。ちなみにハラスメントは攻撃ターゲット(ハラッシー)にこちら(ハラッサー)の正体を見破られたら成立しません。そこで、米国覇権主義者(ハラッサー)はわれわれ日本国民(ハラッシー)に証拠を見せずに攻略してきます。上記拙著は一般国民には見えにくい「米国覇権の対日攻略」の実態を明らかにすることによって、日本国民に警告を発しています。

3.静かなる戦争と沈黙の兵器
ネット情報によれば「静かなる戦争のための沈黙の兵器」(注3)という書があるそうです。このコンセプトを読むと、戦後日本に対する「米国覇権の対日攻略」こそ、まさにこのコンセプトの壮大な実験だったのではないかという気がします。表向き民主主義を旗印にする米国にとって、仮想敵国が米国と同様の民主主義国であった場合、さすがに
大義なき軍事攻略はできません。なお彼らは、敵が共産主義をかたる一党独裁国家、あるいはテロリスト国家ならば、堂々とハードパワーの軍事攻略を仕掛けてきますが・・・。そこで民主主義を採用する仮想敵国向けに考案されたのが「沈黙の兵器」、すなわちソフトパワー(注4)による攻略(国家ハラスメント)なのです。
 さて筆者の所属したSRIではジェームス・オグルビー博士が1985年、経験産業(Experience Industry)論を発表していますが、その理論的背景には米国ロックフェラー財団の寄付で戦後まもなく設立された英国タヴィストック研究所(注5)の軍事プロパガンダに関する社会心理学的軍事研究成果があります(注6)。戦後、英国タヴィストック研究所の成果(ソフトパワーによる敵の無力化戦法)が、SRIなど米国の軍事研究シンクタンクに移転されています。
 敗戦直後の日本は、米国の占領軍司令本部(GHQ)によって一時、統治されましたが、ネット情報によればGHQは「3S政策」を戦後の日本に適用したといわれています。3SとはSports、Sex、Screen/Songを指します。米国型プロスポーツの振興、風俗産業の黙認、米国製映画・音楽の普及により、敗戦国日本国民の屈折した反米感情を快楽や欲望(経験産業の提供する感性価値)に転化させること(これぞハラスメントそのもの)を狙ったものです。つまり3S政策はまさに「沈黙の兵器」と位置づけられます。このGHQ占領政策はズバリ的中、戦後日本の芸能・文化はすっかり米国化されました。悪く言えば、すっかり堕落させられた(戦前の軍国主義日本がすっかり去勢された)ということです。
さらに戦後日本の高度成長が加速するにつれて、日本国民の衣食住のライフスタイルがすっかり米国化されてしまいました。この実態は過激な表現を使えば「洗脳支配」(注7)と呼ぶことができます。2006年7月、小泉前首相はブッシュ大統領の招待で、米テネシー州メンフィスのエルビス・プレスリーの記念館グレースランドを訪問しました。このときの彼のはしゃぎ様ほど無様なものはありませんでした。プレスリーのサングラスをかけた彼のタコ踊りをブッシュ夫妻とプレスリー家族が軽蔑の眼差しでみつめているシーンが世界中に放映されました。このシーンほど郵政民営化を実現させた米国覇権主義者を高笑いさせたものはないでしょう。このシーンこそ、戦後日本が彼らの「沈黙の兵器」に完全無力化された象徴とみなせます。 
ちなみに、洗脳( Brainwashing )は敵国民だけでなく、自国民にも適用されます。それが軍事プロパガンダであり、自国兵士やスパイのマインド・コントロールです。2003年、ブッシュ政権によるイラク戦争開始の際にもふんだんに応用されています。

4.日本国民の洗脳支配
 米国覇権主義者が日本国民の洗脳支配に成功すれば、米国にとって軍事的には仮想敵国の国民を無力化したと同義です。ソフトパワー・コンセプトの導入によって「敵の無力化」の定義が大きく拡大されました。近代戦争では武器で敵を殺傷するだけが「敵の無力化」ではないのです。
 ところで戦後の米国の寡頭勢力(米国覇権主義者の頂点に君臨する闇支配者)はマスコミやマルチメディア業界の闇支配に極めて熱心です。なぜなら軍事プロパガンダ技術が戦争のみならず、大統領選挙(寡頭勢力の利権獲得に関係する)などの政治的な世論誘導にも応用できるからです。寡頭勢力は、軍事プロパガンダ研究に多額の研究投資し
てきたおかげで、米国民のみならず日本国民も巧妙に洗脳支配することに成功しています。
(やまもと・ひさとし)

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注1:山本尚利[2003]『日米技術覇権戦争』光文社
注2:安富歩、本條晴一郎[2007]『ハラスメントは連鎖する』光文社新書
注3:阿修羅『静かなる戦争のための沈黙の兵器』
      http://www.asyura2.com/data002.htm
注4:ジョセフ・ナイ[2004]『ソフトパワー』日本経済新聞
注5:ジョン・コールマン[2006]『タヴィストック洗脳研究所』成甲書房
注6:山本尚利『経験産業:情報・知識産業を包含する新産業』早稲田大学ビジネス
      スクール・レビュー、第8号、2008、日経BP
注7:苫米地英人[2008]『洗脳支配』ビジネス社
4 9月

「さらば工学部 ―理系離れは続く―」

小野 正人
 
またか、と言いたくなるフレーズである。1990年代のバブル経済以来20年近くの間、この理系離れ現象はなんだかんだと続いてきたが、ここに来て理系 出身者と文系との間の生涯賃金格差が5000万円と分析されるとなると(日経ビジネス2008年8月18日号、「さらば工学部」)、高校生であれ、その親であれ、工学部や理学部への進学に躊躇するようになるのも無理はあるまい。
かくいう筆者は、「高3文転」した文科系学部卒業である。今のご時勢は知らないが、筆者の高校では(約30年前)、高校2年4月の文・理のコース選択の際には6割が理科系を選択した。その頃に文科系を選ぶのは、「数学・理科が苦手な連中か女子生徒」というイメージで、普通は当然のように理系を選ぶムードだった。そうして、受験準備モードが本格化する高校3年に、一旦はあまり考えずに理系を選択した生徒が「やっぱり文科系のほうが楽」というような気持ちで文転し(生徒の約1割だったかと思う)、大学入試時点では文・理が半々になっていたようだ。
筆者の場合、結果として文転は悪い選択ではなかったように思う。理系では大したものでなかった数学は、文系入試では稼ぎ頭の科目となったし、大学時代は工学部連中は週2日を夜まで実験に費やしてアルバイトの時間もなかなか取れない一方で、代返とノート借りで十分対応可能なお気楽文系学生となって大学に行くのは週2回ペースで済んだ。就職も文系が有利だった。というか、文系の場合就職の選択肢が広い分、自由な就職活動ができた。工学部は当然、専攻や研究室の制約から入れる会社は限られるけれども、文系は広い意味選び放題(というか自分の実力次第)。もっとも、卒業後の人生が文系だから良かったかどうか・・・。
文系出身者の賃金優位の理由は、文系の就職先である金融・商社・マスコミといった業種の給料が他業種より高いこと、開発・研究といった理系職種 が高度な専門性を要する割に営業・事務といった文系職種より優遇されていないこと、および理系出身者の管理職・経営職への登用割合が低いこと、といった要因がトップ3を占めるであろう。とはいえ、これらの要因は高度成長期から一貫して続いている現象で目新しくもない。 
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理工系が敬遠されるようになったのは、かくいう賃金格差だけで説明するのは無理があると思う。どだい、高校生が生涯賃金の発想で学部選択すると は思いにくい。むしろ、エンジニアや理工系研究者に対するネガティブ・イメージの拡がりではなかろうか。かつて高度成長期には、湯川秀樹、朝永振一郎のような「理系のヒーロー」が高校生の頭の中に存在したが、今はあのお二方のようなロールモデルを見出しにくい。特に、科学技術のような学術的趣味・興味を持っている 若者まで「おたく」呼ばわりされるようになった社会現象は、理系人間に対するネガティブ・イメージを決定づけている。日本社会が高度で複雑な科学技術に対して、純粋な評価よりも「ダサい」(少なくともカッコよくない)と考える割合が高くなっているのが原因では、というのが筆者の考えである。
日本経済が成熟化し大企業も高齢化していく中で、新技術・新商品の開発よりも、ヒト・モノ・カネ経営資源の社内統制が経営として優先され、フロンティアを拓くエンジニアより管理のうまい社内官僚が出世する構造になっている。ジェネラリストである文系集団が有利な状況であることは明白だ。しかし、それは理屈ではわかっても、どうして日本企業の中に文理(事務系・技術系)の二系統が形成されて作ってキャリアを分けてしまったのだろうか?。確実な証拠はないが、おそらく戦前の官吏制度に由来するものだろう。すなわち、中央官庁の官僚を事務官(文官)と技師・技手(技官)に分けて採用 し、その後の人事配置も文官・技官別に配置して厳然たるキャリア体系を形成させた文・理別人事制度慣例が、戦前戦後の日本企業に浸透していったというわけだ。この制度では、入社時につけられた文・理の背番号をリタイアするまで負わされていき、社内のポストも文・理の色ではっきり分けられ、技術系がつける役職かどうかが明白になっている。このような官吏制度のなかった欧米と現在の日本が違うのは当然であり、こういう歴史によって作られているものだけに、日本企業にある文・理の壁は厚い。
では、理系エンジニアは、経営のできない、指導者になれない、戦前型の「技術吏員」なのだろうか?。そんな発想、ナンセンスと皆思うにもかかわらず、いわく言いがたい制度慣行が改革の邪魔をしている。こと大企業や伝統企業になると、役員登用・幹部登用は人物本位が建前とはいえ、どうしても過去の 慣例や人間関係がモノを言う。結果として、福田首相のような文系にありがちな調整型人材が多用されてしまう訳だ。
結局、理系エンジニアが経営で活躍する独壇場はベンチャーなのではないか。テクノロジー系の中小企業やベンチャーは、欧米のみならず日本でもエンジニア出身社長が大半だ(六本木ヒルズ族のベンチャー経営者はほとんど文系だったけれども)。世界のどこをみても、技術革新のフロンティアは技術者が切り開いている。高校の授業で一度はプロジェクトXのDVDを見せてほしいものだが、バラエティ番組には勝てない。せめて「爆笑問題のニッポンの教養」(NHK)に頑張ってもらいたいが、お笑いだけでは是非もない。こういうときはノーベル賞かもしれないが。
19 8月

「裸の王様だった、技術立国日本」

山本尚利

1.評判の悪い日本のiPS細胞研究の国家戦略
 2008年8月13日の朝日新聞にiPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究(注1)に関して日本の国家戦略が見えないという批判記事が載っています。同研究の日本の権威、山中伸弥京大教授(再生医学研究所)は1993年より3年間、グラッドストーン研究所(GSI、サンフランシスコ)のポスドク研究員でした。この研究所はカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)発の非営利研究所だと思われます。
筆者が1986年より2003年まで所属したSRIインターナショナル(元スタンフォード大学付属研究所)とよく似た大学発の独立研究所(スピンオフ研究開発型ベンチャー)です。山中教授のGSIでの経験が同氏の研究観を形成していることは、さまざまな関連記事における同氏の発言から明らかです。日米の研究文化、特に、ハイリスクのサイエンス、ハイテク(先端技術)の研究文化は日米で大きく異なることを同氏は体験していると思われます。
 上記の新聞報道によれば、iPS細胞の研究開発戦略に関して、政府の総合科学技術会議の作業部会が半年がかりでまとめた研究推進策の評判がよくないようです。なぜでしょうか。筆者からみれば上記は当然の反応です。なぜなら、この新聞記事を読むまでもなく、iPS細胞関連技術に限らず、ハイテク領域の研究開発全般に関して、日本は米国にすでに大きく後れをとっていて、とてもとても国際競争力はないからです。これは戦後、長い間の国家の怠慢ですから簡単には解決できそうにありません。このことは筆者がすでに証明済みです(注2)。このあせりがiPS細胞研究関係者の不満を呼んでいると推測されます。今頃気付いても手遅れですが。

2.ハイリスクの研究開発にきわめて弱い「技術立国日本」
 さて戦後の日本は元々、ハイリスクのハイテク研究開発は決して強くありませんでした。当然です。日本は米国に比べて、ハイリスクの基礎研究や原理の探求研究にかける公的資金の規模が絶望的に低く、筆者の試算では日米の国家経済規模の差を考慮しても、米国に比べて対GDP比で年2兆円以上不足しているからです(注2)。ところが、世間では「技術立国日本」という洗脳的インプットが効きすぎて、多くの日本国民が誤解(日本は技術が強い国家であるという誤解)しているのです。戦後の日本は、ハイテクの技術シーズに関してほとんどが米国からの技術導入です。日本の技術的強みは、米国から移転した基幹技術(基礎的・原理的技術)を改良する部分に限られます。この部分はほとんど民間企業の研究開発あるいは技術開発の領域です。公的資金が必須のハイリスクのハイテク研究開発(注3)において、日本は今、米国のみならず欧州、中国からも遅れつつあります。最近の中国人の対日観の変化(日本より自分たちが上だという思い込み)の背景には、日本のハイテク水準の低さが彼らに知れた点(裸の王様だったことがばれた)にあります。

3.なぜ日本の公的研究予算は米国に比べて絶望的に少ないのか

 なぜ日本はハイリスク研究開発に必須の公的資金の研究予算が絶望的に少ないのか(注2)。その理由は、
(1)日本ではハイテクの基礎的・原理的研究投資はこれまで日本企業の中央研究所で主に行われてきた。さもなければ米国からの技術移転であった。
(2)研究自前主義だった日本企業が日本の公的研究機関や大学研究所にあまり期待しなかったためか、日本では公的研究予算が絶望的に少ない状態が長期に放置された。
(3)日本の国家予算を大蔵省(現、財務省)が支配しており、文系の東大法学部出身で固められてきた国家予算官僚にはハイリスクの研究開発の国家的重要性認識が欠落している。
(4)国家の研究開発予算が省単位で縦割り化・分散化されており、日本国家として費用対効果が出しにくい国家研究開発体制となっている。
 もうひとつ隠れた理由として、
(5)日本が基礎的・原理的研究に公的予算を増やすことが米国覇権主義者から警戒され、あの手この手で抑制させられてきた可能性がある。なぜなら敗戦国日本の軍事技術力が再び、彼らの脅威にならないように仕向けられているからである。
 ちなみに日本政府は米国債を買うこと(買わされること)を国家研究開発投資より優先しており、その結果、財政破綻状態の米国連邦政府は日本国民の預貯金を原資として日本政府に買わせた米国債を自国の国家研究開発の原資にしています。われわれ日本国民にとってなんというばかげた日米外交関係でしょうか。

 以上は日本国家の技術戦略および公的資金による研究開発体制の構造的課題です。これでは日本のハイテク国際競争力が強化されないのは当然であり、日本人の才能・能力の問題で決してありません。なお、この構造(欠陥構造)は日本を監視・警戒する米国覇権主義者には望ましいはずです。

4.日本の国家技術戦略は米国と大きく異なる
 よい悪いは別として、日米の国家技術戦略立案プロセスは大きく異なります。その相違とは、
(1)日本では文部科学省が主に国家科学技術政策を決めているのに対し、米国ではまず国家安全保障と国益に直結する戦略的覇権技術体系(軍事応用技術中心)と一般的科学技術体系を峻別し(注4)、覇権技術の国家技術戦略を国防総省(注5)が仕切っている。その結果、米国のハイテク成果の多くは軍事技術の派生成果(ディフェンス・コンバージョン)と位置づけられる。そしてハイリスクの研究開発に公的資金を投入することの正当化が行われる。
(2)日本では国家の科学技術予算は教育予算の延長でしかない(米国の一般的科学技術予算に相当)。一方、米国では国防(核兵器・エネルギー技術含む)、医科学(生物化学系軍事技術含む)、航空宇宙(航空宇宙系軍事技術含む)を三本柱として戦略的覇権技術体系が構成されている(注2)。この背景には軍事技術力が国家安全保障あるいは国益に直結するという国家技術戦略思想と国益最優先のミッションが厳然と存在する。他方、戦後日本の科学技術政策には米国のような骨太の国家ミッションが存在しない。単に米国を後追いするクラゲ同然である。
 上記のように科学技術の研究行為とはあくまで国家ミッション遂行の手段であるにもかかわらず、日本はそれを目的化してしまっています。日本の科学技術の研究行為のミッションを敢えて挙げるなら、それは単に米国の後追い、もしくは日本国民の人材教育でしかないのです。また、日本ではエネルギー分野を中心に経済産業省も別途、科学技術研究機関を有していますが、そのミッションは日本の産業支援でしかありません。

 もうひとつ細かい日米の相違を挙げれば、
(3)国家研究予算の思想が日米で根本的に異なる。日本にはハイリスク研究開発投資に関して確固とした予算思想が存在しないため、ハイリスク公的研究開発(一瞬先が闇で、失敗の確率が高い)の予算を一般のプロジェクト予算と同様に扱っている。すなわち、公的資金であるがゆえに、その予算の出納明細を明示することが優先される。一方、米国では研究プロジェクト責任者の専門家(サイエンティスト)にいっさいの研究遂行リスクを委ね、自由采配と成果主義を優先する。これは戦場の指揮官に全権委任する戦争の作戦プロジェクト(極めてハイリスク)展開方式と似ています。

 さらにもうひとつ日米相違を挙げれば、
(4)日本では公的研究開発予算(国立大学運営費を含む)を公務員資格の研究者や大学教員が自前の人件費として使うのが常識化している。一方、米国では公的資金の研究開発には国民の税金が使われているわけだから、公的研究開発予算はできるだけ、民間の研究開発型ベンチャーや大学研究所に競争的に配賦される。そして、米国の公的研究所の研究員は少数精鋭で予算配賦と技術評価に傾注する。なぜ米国でGSIやSRIのような独立研究機関(コントラクト・リサーチ)が成立するのかの秘密がここにあります。ハイテク・ベンチャーの活性度が日米で大きく違うのは当然です。
 最後に、日米の国家技術戦略における、もうひとつの隠れた根本的相違を挙げてみます。
(5)日本の科学技術政策は、サラリーマンにすぎない科学技術系官僚(自分がリスクをとるのを避けようとする人たち)が、科学技術専門家(主に大学教授)を委員(薄謝で調達)にしてその答申をベースにとりまとめ、国会で政治家の承認を受けるという形式(究極の無責任体制)がとられる。一方、米国では国家技術戦略立案に関して、米国連邦政府の諜報機関や国家戦略立案シンクタンクに多額の出資する民間財団が存在し、国家技術戦略に必要な情報収集と調査分析に多額の費用をかける体制ができあがっている。ただし、米国の国家技術戦略はその財団への出資者の意向に沿う傾向となる。このように米国では国家技術戦略の諜報活動(インテリジェンス活動)にかけるコストが膨大であるが、この部分が日本では欠落している。

 以上のように国防に直結する国家技術戦略のインテリジェンス活動(表に出ない予算で行われる活動)にかける予算が日米で大きく異なるわけです。ハイテク国際競争力において日米間で絶望的な差がつくのは当然です。
(やまもと・ひさとし)

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注1:ベンチャー革命No.249『日本の万能細胞研究:甘くない米国覇権主義者』2007年11月27日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr249.htm
注2:山本尚利、寺本義也『日本企業に求められる先端技術のR&D戦略』早稲田大学ビジネススクール・レビュー、第3号、2006年1月
注3:なぜ国家的に重要なハイリスク研究開発は公的資金投資が必須になるかというと、収益志向の民間研究開発投資になじまないからである。
注4:米国における戦略的覇権技術と一般科学技術の公的研究開発予算の構成比はおよそ7対3くらいである。
注5:米国の国防総省は国家安全保障と国益護持をミッションとする国家組織であり、その下部組織である軍隊は国防ミッション遂行の手段として位置づけられている。この思想から国益に直結する国家技術戦略は当然、国防総省の重要ミッションとなる。
9 7月

「ブッシュ政権、一将功成りて万骨枯る」

山本尚利

1.米国民からの敵視に怯えるロックフェラーの末裔
2008年7月7日より3日間、G8洞爺湖サミットが開催されます。その前日の7月6日のマスコミは当然ながら洞爺湖サミットでの議題(環境、石油、食糧問題)を取り上げています。その中で同日の朝日新聞はコッソリと「ロックフェラー家の危機感」(立野純一NY特派員)を取り上げています。今年5月末に開かれたエクソンモービル(事実上、デビッド・ロックフェラー、ジョン・ロックフェラー3世の五男の所有)株主総会でひと騒動がありました。同社の創業者ジョン・ロックフェラー1世の末裔一族がエクソン経営陣に脱石油時代に向けた技
術投資を行うよう要求(利益を国民に還元しろという要求)したからです。彼らは米国民の怒りの矛先が自分たちに向けられるのではないかと怯えているのでしょう。原油高騰で大もうけしているのはデビッド一派であって、ほかのロックフェラー末裔がもうけているわけではありません。軍事・エネルギー系米国覇権主義者(戦争屋)のボス、デビッド・ロックフェラーと、その甥、ジェイ・ロックフェラー(国際金融資本系米国覇権主義者、すなわち銀行屋のボスで、正式にはジョン・ロックフェラー4世)が米国覇権をめぐって厳しく対立しているのは事実です。この二人の対立(ロックフェラー家のお家騒動)が現在の米国経済の大混乱の震源であるのも事実です。このことは知的な米国民の間では暗黙の常識でしょう。昨今の原油高騰の恩恵により、エクソンモービルは2007年度決算で4兆円を超える純利益を計上していますが、史上空前の大もうけしているわりには、石油資源開発投資、石油精製設備投資、代替エネルギー開発投資に消極的です。しかもこの大もうけは、高いガソリンを買わされる国民の犠牲の上でもたらされています。周知のように共和党政権は伝統的に軍事・エネルギー業界(エクソンを含む)をスポンサーにしています。ブッシュ政権は過剰反応的にスポンサーの期待に応えたわけです。

2001年、ブッシュ政権誕生とともに、米国連邦政府の国家技術戦略は大きく転換されています(注1)。元副大統領アル・ゴアの主導した環境投資を大幅縮小、国家研究開発費をクリントン時代の1.5倍に増額させて先端的軍事技術(諜報技術、生物化学兵器含む)のほか、原子力発電技術、石炭液化・ガス化(クリーンコール)技術の研究開発に重点投資しています。ちなみに、財政破綻しているに等しいブッシュ政権の国家研究開発予算には小泉政権の集中購入した100兆円を超える米国債の資金(日本に返済されない可能性が大)の一部が当てられています。つまりわれわれ日本国民の預貯金(米国債購入の資金源)が実質的に使われています。上記、ロックフェラー末裔の要求(脱石油時代に向けた技術投資)はエクソンではなく、ちゃっかり日本国民の預貯金で賄われていたのです。彼ら米国覇権主義者の常套手段、それは自腹を痛めず「他人のふんどしで相撲を取ること」です。これらの事実から、今日の原油高騰シナリオはブッシュ政権を支配する米国覇権主義者(主にデビッド一派)によって20世紀中にすでに描かれていたと筆者は確信しています。

2.デビッド・ロックフェラーにとって、うまく行き過ぎたブッシュ政権
 マスコミのみならずネット上でも、サブプライムローン焦げ付き問題をみて、米国覇権の衰退(ドル覇権の弱体と多極化時代の到来)が指摘されています。しかしながら筆者の見方はまったく異なります。ブッシュ政権を担ぎ出した勢力(中心はデビッド一派)はクリントン政権時代から、中長期シナリオを開発しており、ブッシュ政権はそのシナリオに沿って誕生し、政権獲得後、そのシナリオを忠実に実行し、所期の成果を挙げたという見方です。ブッシュ政権には、非常に困難なシナリオを成功させる知能をもった有能な人材(天才的な悪知恵の持ち主)が配置されています。彼らが20世紀末に描いたシナリオとは、まず9.11事件(中東戦争の起爆剤)を起こして、テロとの戦いを大義名分に中東の反米大国イラクとイランを先制攻撃し、自分たちの所有する軍事産業を潤わせると同時に、イラク、イランに彼らの傀儡政権を樹立して、中東石油利権を奪還するというものです。その際、中東石油の供給不足および中国、インドなどの石油需要増から21世紀の原油高騰は不可避とみなしていたわけです。それに備えて、2001年以降、彼らは用意周到に原子力発電とクリーンコールの技術投資を強化していたのです。彼らのシナリオでは、遅くとも2006年までにイランを先制攻撃するはずだったのが、2008年7月現在、まだ実現できていません。この点のみが彼らの誤算なのです。なおイラクの混乱の長期化は、もともと本命の攻略ターゲットであるイラン先制攻撃に必須の条件(イラク混乱を名目に増員したイラク駐留兵力を速やかにイラン先制攻撃に転用するため)だったので、すべて意図的に計画されたものであると思います。したがってイラクの長期混乱・泥沼化をもってブッシュ政権がイラク戦争に失敗したとみるのは早計でしょう。にもかかわらず、2006年6月の世界的寡頭勢力(ロスチャイルド財閥、ロックフェラー財閥を含む)の秘密会議ビルダーバーグ会議(毎年、G8サミットの前に開催される)でブッシュ政権の企むイラン先制攻撃を反対されたこと(注1)が、ブッシュ政権のイラン先制攻撃シナリオを狂わせたのです。
おそらく、EU支配のロスチャイルド財閥とアンチ・デビッドのジェイ・ロックフェラー(オバマ支持の民主党上院議員)の意思が強く働いたものと推察されます。にもかかわらず、ブッシュ政権は、当初のシナリオ通り軍事産業を潤し、期待以上の石油高騰を実現したので、デビッド一派にとって、ブッシュ政権支援の費用対効果は十分に採算がとれたわけです。彼らにとって原油高騰の短期的マイナスは、派生的に石油産出国ロシアにも恩恵のおこぼれが回ること、そして反米石油産出国イランにも同様の恩恵が回ることです。しかしながら中長期的には決してマイナスではありません。なぜなら石油で潤うロシア(仮想敵国)の軍事的脅威が再び高まり、また敵国イランの軍事的脅威もさらに高まるので、彼ら戦争屋にとって米国軍事産業強化の正当化に新たな口実ができるわけです。ちなみに民主主義国の戦争屋の戦略とは、敵をいかに攻略するかと同時に、敵の脅威をいかに高めるかという相矛盾する二律背反の側面を常にもっています。民主主義国では敵の脅威が下がれば、防衛予算が減額されるからです。

3.原油高騰の派生効果、人口削減計画の始動
 さてブッシュ政権を支配するデビッド一派のうれしい誤算、それは予定された120ドル/バレル(GBNのピーター・シュワルツの設定シナリオ)を大きく超える原油高騰(2008年7月140ドル突破)が実現したことです。デビッド一派にとってブッシュ政権操作はうまく行き過ぎたのです。ブッシュ政権のもたらした原油高騰の派生効果は計り知れません。原油高騰に伴って予定通り世界的に食糧高騰が発生し、世界的寡頭勢力が長期的視野で密かに企んでいる人口削減計画のアジェンダ始動が目前となっています。世界の貧困国から順番に食糧不足に陥って、人口減少が起きるでしょう。今、世界は彼らの本音の狙い通りに推移しています。その意味でキレイゴトに終始する偽善的G8洞爺湖サミットは、彼らの本音をカムフラージュするのにもってこいのイベント(目くらまし)に過ぎません。このミエミエの茶番劇も、世界規模での多様なネット情報の提供によって、世界のネットナビゲーターからは、当の昔に見透かされています。
G8洞爺湖サミットを得意気に報道する日本のマスコミが滑稽にみえます。だからこそ、ウラ事情を知る朝日新聞NY支局のマトモなジャーナリストが、あえてG8サミット前夜、米国の帝王ロックフェラー財閥の話題をさりげなく掲載したのでしょう。その狙いに読者のどれほどが感づくのでしょうか。
さて傲岸不遜の極致、デビッド一派の思わぬ誤算、それはイラン先制攻撃の遅れに加えて、ネット世論の強大化です。9.11事件が自作自演(Inside Job)ではないかという見方がネット世代を中心に米国民の常識(2006年のCNN調査によれば米国民の75%が9.11事件は政府の自作自演ではないかと疑っている)となっています。米国民はブッシュ政権になってガソリン価格が4倍に暴騰した根本原因に気づき始めています。寡頭勢力に牛耳られるマスコミや証券会社のエコノミストは石油高騰理由についていろいろ詭弁を弄していますが、賢明な米国民も少なくないのでもうだまされないでしょう。デビッド一派への恨み(「一将功成りて万骨枯る」に対する恨み)は日に日に募っています。デビッド一派(戦争屋)は大もうけできたものの、米国の国富が偏り過ぎて、結局、米国の国民経済がガタガタになってきたのです。「過ぎたるは及ばざるが如し」とはこのことです。それをみて、デビッド一派のおこぼれにすらあずかれない他のロックフェラー一族はとんだトッバチリだと怒ったのです。上記、エクソンモービルの株主総会の騒動の根本原因は、米国民の恨みがデビッドのみならず、ロックフェラー一族全体に向けられるのではないかという危機感の表れです。

4.米国民の9.11真実解明要求にこたえて、ブッシュを生け贄にする計画が進行か
9.11事件に関する多数のネット情報から推測して、2008年末、ブッシュ大統領の任期満了の引退とともに、ポスト・ブッシュの次期政権の下、米国民の9.11事件の真実解明の要求が爆発する可能性が高いと思います。9.11事件の直接の犠牲者が3千人、発ガン物質の被害による救助隊員など二次犠牲者が千人規模といわれており、ただでは済まされません。2007年秋、ブッシュ大統領の暗殺を
予告するような不気味で悪趣味の映画がすでに封切られています(注3)。ブッシュ大統領はデビッド一派の傀儡(パペット)に過ぎないわけですが、いざとなったら、彼に一切の罪を押し付けようとするシナリオが描かれているかもしれません。しかしマスメディアによるマインドコントロールという彼らのいつもの手口もすでに色あせています。現代のインターネット社会は60年代のケネディ暗殺時代とは違います。米国の知的ネット世代は今度こそはだまされないでしょう。
(やまもと・ひさとし)

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注1:拙著『日米技術覇権戦争』光文社、2003年
注2:ベンチャー革命No.200『北朝鮮ミサイル:日本国民をもてあそぶ玩具』2006年7月5日
  http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr200.htm
注3:ベンチャー革命No.246『英国映画「大統領暗殺」の黙示』2007年10月17日
  http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr246.htm

15 4月

「ジムとビルの決闘:マイクロソフトのヤフー買収攻勢」

山本尚利

1.マイクロソフトのヤフー買収攻勢強まる
 2008年4月11日付け、日本経済新聞に、マイクロソフトのヤフー買収計画の記事が掲載されました。同報道によれば、ヤフーの背後に、グーグル、AOL、タイムワーナーがつき、マイクロソフトの背後にニューズ・コーポがついているようです。このバトル構造は90年代後半から起きたジム・クラークとビル・ゲイツのバトルの延長戦の様相を呈してきました。拙著、MOT技術戦略(2003年)ではインターネット覇権をめぐるジム・クラークとビル・ゲイツとの決闘(バトル)について触れています(注1)。
 ジム・クラーク(元スタンフォード大教授)は1994年、シリコンバレーにて、アップルのマックOS、サンマイクロシステムズのJava言語の環境にてインターネットを動かすブラウザー・ソフトの開発企業、ネットスケープ・コミュニケーションズをマーク・アンドリーセンとともに立ち上げました。マークはイリノイ大NCSA(National Center for Supercomputing Applications)でモザイク・ソフト(ブラウザー・ソフトの原型)を開発していた研究者です。NCSAの研究者は別途、1998年、スパイグラスというベンチャーを立ち上げ、モザイク・ソフトのライセンシングを行っていました。ビル・ゲイツ率いるマイクロソフトのインターネット エクスプローラはスパイグラスからのライセンスを元に生まれたソフトです(注2)。
 90年代末、マイクロソフトのOS、ウィンドウズにインターネット エクスプローラが標準搭載され世界市場を席巻、今では、ネットスケープは市場から駆逐されて、ほとんど使われていません。90年代半ば以降、筆者はSRI(元スタンフォード大付属研究所)にてネットスケープを使っていましたが・・・。インターネットのブラウザー・ソフトでビルに追い越されたジムの恨みは想像を絶するでしょう。ちなみに、ネットスケープはその後、経営悪化でAOL(後にタイムワーナーと合併)に買収されました。その意味で、上記、買収劇におけるヤフー陣営の黒幕はジム・クラークではないかと推察されます。ちなみに、このジム・クラークこそ、世界で初めてインターネットの事業化に成功した歴史に残るシリコンバレーのヒーローです。

2.ビル・ゲイツにやられ放しのジム・クラーク
 ビル・ゲイツが買収しようとしているヤフーは、ジム・クラークのネットスケープでインターネットを立ち上げたときのポータル・サイトを運営していたベンチャーです。ヤフーは当初、インクトミの検索エンジンを使用していましたが、途中、インクトミのライバル、グーグルに切り替えました。その後、ヤフーはインクトミを買収して自社の検索エンジンを開発、2004年にグーグルの検索エンジンをヤフーサイトからはずしたのですが、その後、独立したグーグルはヤフーのライバルに成長、2008年現在、結果的にグーグルがヤフーより巨大化してしまったわけです。
 このような歴史から、ヤフーもグーグルも同じ穴のムジナであり、ジム・クラークのチルドレン・ベンチャーと位置づけられます。だからこそ、マイクロソフトのヤフー買収攻略に対抗して、グーグルがヤフー陣営についているのだと思います。もし、ヤフーがマイクロソフトに取られたら、ジム・クラークは死んでも死に切れない心理状態に追い込まれるはずです。なぜでしょうか。まず、90年代半ば、マイクロソフトのウィンドウズOS攻勢によって、ジムと関係深いアップルのOSが市場から駆逐されています。次にジムの興したネットスケープも上記のように90年代末、ウィンドウズ・マシン(デファクトOS)へのインターネット エクスプローラの出荷前搭載戦法によって駆逐されました。さらに2002年、ジムの仲間であるスコット・マクネリーらの創業したサンマイクロシステムズの起した、マイクロソフトに対する独禁法訴訟も2004年、19.5億ドル(2100億円)で示談・和解が成立、サンはマイクロソフトに取り込まれてしまいました。そして、今回のマイクロソフトのヤフー買収攻略です。もし、今度ヤフーが取られたら、ジムにとって4戦連敗となります。

3.根の深いジム・クラークとビル・ゲイツのバトル
 90年代末、インターネット時代にいったん後手を引いたビル・ゲイツは、何とかスタンフォード大学(インターネットのメッカ)に食い込もうと、多額の寄付を行っています。その証拠にスタンフォード大学の工学部キャンパスには、ビル・ゲイツやポール・アレン(ビルの片腕)の名を冠したビルが建っています。90年代末、ジム・クラークはスタンフォード大に、なんと1億5千万ドル(約160億円)もの寄付を行っています。この巨額寄付を仲介した、ジムの盟友、ジョン・ヘネシー教授は、その功績で学長に出世しました。当初、筆者はなぜ、ジムがこれほど巨額の寄付をしたか、実に不思議でしたが、ジムの宿敵、ビル・ゲイツのスタンフォード大学への接近(アクセス)を阻止するためだっ
たのではないかと憶測しています。
 ところで、インターネット技術体系はユタ州・国防総省人脈の成果であるといわれています(注3)。ジム・クラークはその中核的存在です。その証拠に、インターネットの前身、アーパネットの世界初の実験が1969年に行われたのは、筆者の所属したSRI、およびユタ大学、カリフォルニア大学(UCSB、UCLA)の大学間ネットワークでした(注4)。ユタ州といえば、ソルトレークシティ、そしてモルモン教総本山所在地です。SRI元幹部、ポール・ジョーゲンセンもモルモン教徒でした。
 スタンフォード大学キャンパスの中心にはキリスト教の教会が建っています。大学全体が南欧スペイン様式建築物なので、カトリック系のようにみえます。ジムからすれば、キリスト教聖地であるスタンフォード大学キャンパスにビル・ゲイツ(反キリスト教系人物)が接近(アクセス)することは、カトリックの総本山バチカンの二の舞になると恐れたのではないでしょうか(注5、注6)。

4.ジムとビルの対立の背景
 ところで、米国の1ドル札にはピラミッドとルシファーの眼が図柄化されていますが、それは、米ドルが米国連邦準備理事会(FRB)を支配している世界的寡頭勢力のコントロール下にあることを暗示しているといわれています。彼らの秘密組織はイルミナティと呼ばれますが、ルシファーの眼は紛れもなくそのシンボルです。マイクロソフトのビル・ゲイツは、イルミナティの中でも上位階級にランクされるバーバリアン・イルミナティ出身といわれています。 
 ビルは毎年スイスで行われるダボス会議(ダボス会議はイルミナティの非公開ビルダーバーグ会議の対外カムフラージュ機能と思われる)の要職を務めていることからそれが窺えます。もし、ビルが真にイルミナティ・メンバーなら、ビル・ゲイツは反キリスト教系の人物ということになります。
 1963年に暗殺されたケネディ大統領は、寡頭勢力に私物化されているFRBの国有化を目指していました。彼の生前の演説記録によれば、彼はFRBを所有する寡頭勢力をSecret Societyと呼んで徹底批判しています。ケネディ家祖先はアイルランド移民であり、アイルランドはカトリック系国家です。一方、ケネディ的正義漢のジム・クラークは恐らく、伝統的WASP(アングロサクソン系プロテスタント)で、ケネディ大統領を英雄視する伝統的国防総省人脈の系列でしょう。その意味でジム・クラークはイルミナティ(反キリスト教組織)とは敵対する可能性があります。ちなみに、2001年初頭、ブッシュ政権になって、ネオコン(イルミナティに利用されている過激なシオニスト集団)に国防総省が一時、乗っ取られ、9.11事件はその間に起きています。
 ヤフー買収作戦に関して、マイクロソフト陣営に就いているルパート・マードックは、恐らく、イルミナティにおける人脈からビルに要請されて登場していると推測されます。マードックといえば1996年、ヤフー設立に貢献したソフトバンクの孫正義氏とタッグを組んで、テレビ朝日の買収を仕掛けた人物(世界のメディア王)です。ヤフー陣営の後見人、タイムワーナーのオーナー、テッド・ターナーに対抗して登場しているのでしょう。米国のマスメディアはことごとく、FRBを私有する寡頭勢力に間接支配されているといわれています。マードックは少なくとも、寡頭勢力の番頭的存在です。今、彼はマイスペースなど先端的なネット企業までも買収し始めています。ヤフー陣営も所詮、マードックやターナーを通じて寡頭勢力の掌にあるとすれば、孤軍奮闘のジム・クラークも勝ち目がないのかと、絶望的になります。

(やまもと・ひさとし)
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注1:山本尚利[2003]『MOTアドバンスト:技術戦略』日本能率協会マネジメントセンター、306ページ
注2:山本尚利[2000]『米国ベンチャー成功事例集』アーバンプロデュース
注3:ユタ州・国防省人脈、http://www.akashic-record.com/y2k/utah2.html
注4:SRIインターナショナルHP、http://www.sri.com/about/timeline/timeline2.html
注5:ベンチャー革命No.194『ソニー映画“ダヴィンチコード”のインパクト』2006年5月21日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr194.htm
注6:ベンチャー革命No.195『裏切り者ジャップ:キッシンジャー語録』2006年5月28日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr195.htm


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