masaono777

Tech Venture/テックベンチャー

起業家、エンジニア、投資家、支援者が、ハイテク・アントレプレナーシップを考える情報ネットワーク。

23 10月

Tech Ventureの近況

Tech Venture発起人の小野でございます。大変ご無沙汰をしております。
かねてよりご購読頂きましてありがとうございます。

Tech Ventureは、1999年2月からメルマガを始め、2007年以降は定期刊行せずに不定期で発行するスタイルを取っております。
メールマガジンは、「エンジニア・投資家・ベンチャー支援者に向けて、現場で活躍している専門家・実務家が『第一線の情報と真摯な意見』を発信するメルマガ」(1999/2、序にかえて)という目的で運営しておりましたが、ハイテクベンチャー振興発展の運動が拡がる中で、先鞭をつけて啓蒙的な活動を行う(エヴァンジェリスト)という考えはひとまず収束させ、現実に進展しているハイテクベンチャーのビジネスの結実を期待しようという思いを持ったためです。

当時から数年間、各執筆者(現在は私を含め常勤非常勤で大学教員に従事している方が5名)に書いて頂いた小論やコラムは150回以上にのぼり、見返しますと(手前味噌ながら)現在にも適用できるクールな論も多数あります。また、一部の方からTech Ventureどうなっていますかというお問い合わせも頂くことがあります。

経済社会情勢も変化し、またSNSやTwitterのようなソーシャルメディアやRSS等のフィードリーダー・メディアが一般となった現在に、メルマガ発行にこだわる時代でもないと考えまして、以下のようなスタイルで運営致します。

(1)従来のメルマガは、以下のブログに移管して、アーカイブを管理します。いわばアンソロジー(詩撰)のようなものです。既に一部の執筆を映していますので、ご覧頂ければ幸いです。
http://techventure.ldblog.jp/

(2)執筆者陣は、現在も下記のようにネットで発信していますので、Tech Venture的な情報は、こちらの方をお読み頂いたり、RSS購読して頂ければうれしく存じます。
☆山本 尚利「新ベンチャー革命」    http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot
☆小野 正人「Entreprenurship Study」  http://d.hatena.ne.jp/masaono777/

これからも日本のハイテクベンチャーの発展(復活)を期待して行動しましょう、見守りましょう。


【禁無断転載】

*************■■■ (株)リアライズ理工センター ■■■***************
リアライズ理工センターでは、専門技術研修・セミナーの開催、技術書籍販売、専門技術者の紹介、各種調査、図書制作、事務局機能代行など、技術者・団体の支援を行っております。下記URLをご覧ください。▼
http://www.realize-se.co.jp/
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17 7月

「こんな時期だからこそベンチャーキャピタリストを志してほしい」

秋葉 ダイスケ(ペンネーム)

yubi-20101015最近、日本を代表する某大手企業の研究リーダーのA氏にお話を聞く機会がありました。A氏はある分野の製品で世界最先端を走っており、業界でも知らない人はいないというほどの方です。長年の研究成果はすでに製品になっており、売上も上がっているそうですが、当該事業が会社のコアビジネスではないという位置付けされてしまい、縮小の方向になってしまったとのことです。そのような経緯から、事業継続のためにスピンアウトを検討したいという相談でした。

お話を伺ったところ、A氏が何とか事業を継続させるために八方手を尽くして苦労されてきた様子がヒシヒシと伝わってきます。一方で、会社の経営方針は常に変化します。部下のモチベーションも心配です。取引先にも迷惑はかけたくない。何よりも自分の家族が独立を許してくれるのか?。どうやら会社側は、A氏が独立してその事業を存続させたとしても、事業規模の縮小路線に変化はなく、問題ないというスタンスだそうです。なんと理解のある寛大な会社でしょうか。

しかし、残念ながらA氏には創業プランといえるような計画がまだないそうです。大事なことは会社の設立登記の方法やオフィスの借り方といった形式的なことではありません。このようなことは書店で本を買い求めれば大体のことはわかります。A氏のグループには研究者はたくさんおりますが、会社を経営していくにはその他のスキルを持ったメンバーも必要になります。大きな会社の一グループから独立した企業になるのですから、大きさに見合った事業内容と予算を考えなければなりません。もちろんビジネスモデルも再構築が必要でしょう。そのような時に、適切にアドバイスできる人間がいないのです。

大手企業に所属している方々の多くは(自分もかつてそうでしたが)、独立して新しいベンチャーを作る際にとまどうことが多いと思います。A氏自身も検討する余裕がないような様子でしたし、A氏の独立に協力してあげたいと思っている上司や同僚の方々もいらっしゃるようですが、実際に出来ることは限られています。実は、こんな時にアドバイスできるのは、やや願望思考になりますが、ベンチャーキャピタリストではないかと私は考えます。

「じゃあ、会社をつくったら連絡をしてください」
A氏はあるベンチャーキャピタルの方に言われたそうです。ベンチャーキャピタル業界の人にとっては当たり前のように聞こえますが、本当は会社をつくる前に相談したいことがたくさんあるはずです。それでなくとも、理工系の方々は「とりあえず動いてから考える」ということが苦手なタイプが多いのですから。このような、ちょっとした一言にも、ベンチャーキャピタル側のサポート不足が現れているような気がしてなりませんでした。

さて、日本の多くの優良企業も最初は創業ベンチャーから出発しました。今は投資資金の流れが停滞し、このまま回復しないようにも思えますが、未来を見つめる起業家は前向きに機会をうかがっています。こんな時こそ本当のベンチャーキャピタリストの出番です。「うまくいっている時はだれでもよい投資家になれる。うまくいかないときにこそ、本当によい投資家かどうかを試される。」米国でアーリーステージのバイオ専門に投資しているキャピタリストのコメントです。

必要なのは、情熱を持った起業家と賢明な投資家です。どうしたら創業ベンチャーを成功に導くことが出来るのか。周知のとおり、新興株式市場の株価は7割も下落し、経営者の不祥事が相次いでおり、市場は信じてもらえなくなっています。こうしたVCにとって厳しい時期に、ベンチャーキャピタリスト、あるいはベンチャーを育てようとする金融マンが全国で幅広く活動することを願ってやみません。

23 3月

「国家最優先技術課題:日本版グリーン・ニューディールではない」

山本尚利

1.米国オバマ政権の目玉:グリーン・ニューディール政策
2009年3月19日、NHKにて米国のグリーン・ニューディール政策の特集番組が放映されました。この政策は周知のように米国オバマ大統領の米国産業再生の目玉となっています。NHKは、米国同様にエネルギー・環境技術が日本の景気回復の目玉になるというスタンスでこの番組を企画したようです。
この番組で現在の米国でどのような社会システム革新の研究が行われているか、よくわかりました。筆者はクリントン政権時代の1993年~2001年に米国の電力規制緩和と環境規制の調査に従事しており、米国のエネルギー・環境技術動向を調査してきました。2001年1月、ブッシュ・ジュニア政権誕生とともに、クリントン政権時代に環境運動家出身のアル・ゴア副大統領の主導した環境規制は完全否定されてしまいました。2009年1月、オバマ政権誕生とともに、アル・ゴア時代が再び蘇る勢いです。ただエネルギー技術開発に関して、ブッシュ政権は脱石油時代到来を見越して原子力発電技術の再興に注力しました。クリントン政権時代の米国原子力発電は逆境にあり、技術進歩が止まっていました。 米国の軍事覇権にサポートされたブッシュ政権は、原子力技術を国家覇権技術と位置づけ、米国の原子力発電技術の再興を目指したのです(注1)。2006年、東芝がウェスティングハウス(米国の重電機メーカー)の原子力事業部門を買収するのを米国覇権主義者が許したのは、日本に追い越された原子力発電技術(とりわけ製造技術)を再度、取り込むためではないかと筆者はにらんでいます(注2)。

2.米国のエネルギー・環境技術力(グリーン技術力)をみくびってはいけない 
オバマ政権はクリントン時代、ブッシュ時代を通じて、長期的に行われてきた米国のエネルギー・環境技術開発を踏襲しています。NHKは、エネルギー・環境技術に関して、今日、米国より日本の方が進んでいるかのような前提で番組を放映していましたが、筆者の経験では、米国のエネルギー・環境技術が日本より後れを取っているとは言えません。このような誤った認識を国民に植え付けると、戦前の日本と同じく、大きな過ちを犯す危険があります。
まず、電気自動車(EV)に関して、筆者の勤務したSRIインターナショナル(元スタンフォード大学付属研究所)はすでに1984年にEVに関する大規模な調査を行っています。トヨタの開発したハイブリッド・カーのコンセプトもこのレポートに入っています。またSRIの研究所内では筆者が所属した1986年にはEVが移動手段に使用されていました。次にリチウム電池に関しても、GMの系列、デルファイが早くから研究していました。米国ではリチウムポリマー電池(安全性の高いシート状の固体電池)の開発が進んでいました。また米国ではITを活用した発電事業者間のリアルタイム電力取引も行われていましたし、ITベースのDSM(Demand Side Management、電力需要の最適制御)も行われていました。2001年に破綻したエンロンは電力取引のイーコマースを手がけていました。
NHKが紹介したように、EVを軸にした社会システム革新のコンセプトが米国で進んでいるのは、上記のようにその下地がすでにできているからです。オバマ政権になって唐突に出てきたものではありません。自動車社会の米国では世界に先駆けて、オバマ政権時代に本格的EVインフラが実現しそうです。米国の中でもEVインフラの先陣を切るのはカリフォルニア州でしょう。とくにロサンゼルスの大気汚染は限界に来ています。

3.グリーン技術は米国や日本の経済再生の原動力となるか
80年代の構造不況に悩んだ米国はクリントン時代のNII(情報スーパーハイウェイ構想)政策によって、90年代に見事に経済再生を果たしたのは記憶に新しいところです。それではオバマ政権のグリーン・ニューディール政策(GND)は90年代のNIIのように、2010年代米国の経済再生に貢献できるでしょうか。筆者の見方は残念ながらネガティブです。  かつて日本の通産省はサンシャイン計画(新エネルギー開発)とムーンライト計画(エネルギー貯蔵や環境技術開発)という国家プロジェクトを産官学で行っていましたが、これは実に的を射た命名でした。サンシャイン・プロジェクトは産業界にとって優先的技術投資課題となりえますが、ムーライト・プロジェクトは副次的な技術投資課題となりがちで、投資優先度が後回しになります。たとえば、中国の環境対策が遅れているのはサンシャイン投資(発電所建設)で精一杯、ムーライト投資(環境対策)の余裕がないからです。60年代高度成長期の公害日本も同様でした。
オバマ政権のグリーン技術は、どちらかといえば、ムーンライトのカテゴリーに該当します。要するに、自ら光らない月明かり(グリーンライト)なのです。クリントン時代のNIIはインターネットを普及させ、一大IT社会を米国のみならず世界規模で実現させる原動力がありました。しかもNIIによるIT社会は資本主義原理の下で自律発展するメカニズムを有していました。一方、GNDは自律発展するメカニズムがNIIに比して圧倒的に不足しています。GNDが自律発展する条件、それは石油価格の上昇にあります。原油価格が200ドル/バレルのレベルに達しない限りGNDは短期的には成功しても、長期的に米国経済再生の原動力にはなりにくいでしょう。この点は日本にも当てはまります。しかしながら原油価格が200ドルレベルに達したからといって、再生エネルギーが国家エネルギーの主力になる可能性は極めて低いわけです。
その観点からGNDによるグリーン技術投資にあまり期待することはできません。近未来、原油が200ドルになったとして、CO2の削減に大きく寄与するのは再生エネルギー(太陽光発電や風力発電などでムーンライトのカテゴリー)ではなく、やはり原子力(サンシャインのカテゴリー)でしょう。ただし、原子力はCO2を出さない代わりに放射性廃棄物を出します。その意味で原子力は石油や石炭と同様、地球環境にとってハイリスクなエネルギー源です。  ところで米国NIC(国家情報評議会)の2025年予測レポート(2008年11月発行、SRIも予測に協力)の中でも、2025年までの主力エネルギーは石油であると述べられています。近未来、オバマ政権が米国社会をEV化できたとしても、その一次エネルギー源における再生エネルギーの寄与はマイナーであるということです。 

4.グリーン技術に優先する日本国家の戦略技術とは
NHKの番組をみて、グリーン技術が日本の不況脱出の救世主となると期待するのは危険です。グリーン技術は、別途、光源がないと光らないということを忘れてはなりません。オバマ政権の中枢はこのことを十分認識しているでしょう。GND政策は金融システムの崩壊で落ち込んだ米国民を勇気付けるための一時しのぎです。つまりGNDは米国にとっても本来、国家技術戦略上の最優先投資課題となりえません。なぜならグリーン技術産業は半永久的に国家が補助していかなくては成り立たないからです。たとえば太陽光発電システムの普及に国家補助は不可欠です。その意味で太陽光発電は経済性の観点から資本主義社会では原子力発電や化石燃料発電に絶対に勝てないのです。
一次エネルギー資源も一次食糧資源も不足する日本ではなおさらのこと、グリーン技術は国家的最優先投資課題とはなりえません。まずエネルギー・環境分野で日本が最優先すべき技術投資課題は、やはり日本海域の石油・天然ガス資源の自前開発であり、原子力発電技術のさらなる自前開発です。エネルギー・環境分野以外でさらにいえば、日本周辺の極東脅威に対抗する防衛技術の自前開発、自給食糧資源の自前開発がグリーン技術よりはるかに優先します。これらの国家存立課題が達成されて初めて、グリーン技術を開発する余裕がでます。 国家技術戦略上、この優先順位を間違えると天然資源も防衛力も乏しい日本国家の存立自体が危うくなります。国家存立基盤を支える戦略技術課題は日本人の生存に直結しますが、グリーン技術は日本国民の生存が保障された後に重要となります。
一方、米国は、自国内に十分な天然資源(石油、石炭、天然ガス、穀物)を有し、世界最強の軍事防衛力を有しているからこそ、グリーン技術投資に進めるのです。日本とは国家存立基盤がまったく異なることを忘れてはいけません。何でもかんでも米国の後追いすることが正しいとは限りません。NHKの上記番組関係者はそのことがわかっているのでしょうか、大変疑問です。
(やまもと・ひさとし)

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注1:山本尚利[2003]『日米技術覇権戦争』光文社、52ページ 
注2:山本尚利[2008]『情報と技術を管理され続ける日本』ビジネス社、221ページ 

31 10月

「世界同時金融危機:ブラック=ショールズの功罪」

山本尚利

1.先の見えない世界同時金融危機
 現在、世界は株安、ドル安、ユーロ安に陥っています。米国発のデリバティブ金融バブル崩壊が今日の金融不安の要因であることは間違いありません。このあおりを受けて、日本も深刻な株安、円高に陥っています。2008年10月24日の日経平均株価7624円、1ドル95円と、株価は2003年4月28日の日経平均株価7607円(過去の底値)に迫っています。この状態が続けば、来年の日本の景気(製造業の支える日本経済の景気)は大きく後退するでしょう。2008年10月26日の日経新聞によれば2003年の株価収益率PER(時価総額/純利益)109倍に対し、今回は10.3倍です。
この数値から前回は構造不況による株価低迷であったのに対し、今回は世界同時金融危機による株価下落であることが明らかです。日本企業の力に比べて、異様に株価が下がっているということです。この状態はどうみても健全ではありません。もうひとつおかしなことに、前年度比(2007年10月末との比)の株価下落率が日本は54.3%(世界第8位)に対し、金融危機震源地の米国は39.8%(18位)にとどまっている点が挙げられます。また、対ドル騰落率(最近1週間)に関し、多くの国がマイナス(ドル高)となっているのに、日本のみプラス8%(ドル安)となっています。これはいったいどういうことでしょうか。日本の大幅な株安の原因は日本企業株主の30〜50%を占める外人投資家の換金売りといわれており、日本株騰落の原因はよくわかります。さらに外人投資家は海外の持ち株も換金売りして、手にした各国通貨にて円買いしていることになります。
ドル、ユーロに次ぐ世界通貨の円が今、投機の対象となっているわけです。ドルもユーロも信用できないので、消去法でやむを得ず円が選択されているのでしょう。このまま行くと、次に日本株が反転してV字型急騰する可能性すらあります。なぜなら、日本企業の業績は決して悪くないからです。日本の投資家あるいは日本政府が日本株を外人投資家から買い戻す絶好のチャンス到来です。

2.ノーベル経済学賞理論の功罪
 今回の世界同時金融危機はかつての日本の資産バブル崩壊と違って、米国中心のデリバティブ金融商品(金融派生商品)に対する信用の崩壊であるといわれています。そこで、デリバティブ金融商品について考えてみます。米国にてデリバティブ金融商品が普及した背景にはブラック=ショールズ・フォーミュラ(BSF)に代表される金融オプション理論があります。この理論は、後に、筆者の専門の技術経営(MOT)におけるハイリスクな技術投資プロジェクトや研究開発プロジェクトの評価法に応用されてきました。その関係で筆者は20年前の1988年ころから金融オプション理論に関心を抱き、当時、『オプション理論と応用』(大村敬一著、1988年、東洋経済新報社)を購入して勉強していました。ちなみに、この著者は2004年に早稲田大学大学院ファイナンス研究科(日本橋キャンパス)を立ち上げた教授です。
 さてスタンフォード大学教授のマイロン・ショールズ博士はBSF導出の功績により、1997年にノーベル経済学賞を受賞しています。ところが、彼の関与したヘッジファンドLTCM(Long Term Capital Management)が1998年、巨額損失を出して破産し、BSFの正当性に疑問がもたれました。にもかかわらず、その後、BSFを理論的バックグラウンドにしたデリバティブ金融商品市場は世界規模で普及していきました。
 ところでBSFとは何でしょうか。それは巨大な証券市場で日々、変動する多数の銘柄の株価を統計的母集団とみなして、その株式に投資する際のリスクとリターンを定量化表示する数式です。すべての株式銘柄に関する情報が完全に公開され、それに基づいて、多数の投資家が経済合理的に株を売買するという前提が成立すれば、BSF理論そのものに間違いはないと思います。要するに、今日の金融危機に関してブラック=ショールズ理論が悪いのではなく、BSF成立の前提条件を無視して、それを意図的に誤用した国際金融資本に責任があります。

3.ブラック=ショールズの理論が成立する範囲
 BSFの理論をわかりやすくいえば、サラ金の利子を想定すればよいでしょう。サラ金を借りる人は返済不能になる確率が高い。すなわちハイリスクの借り手です。そこで多数のサラ金の借り手を統計的母集団とみなせば、過去の経験に基づき借り手母集団の返済不能者の発生率が推定できます。そして貸し手が損しないレベルの利子率が容易に計算できます。オプション理論のオプション価額がサラ金利子率(しばしば高金利)に相当します。オプション理論を応用したデリバティブ金融商品にはその市場価格の変動リスクを引き受ける胴元(保険組織)が存在します。胴元はおのれが損しない範囲のオプション価額分だけ前金でもらうことによって、その金融商品の値下がりリスクを保証します。たとえば投資家は元本10億円のデリバティブ金融商品に投資する際、そのオプション価額、たとえば1億円の前金を胴元に払えばよく、市場価格が1億円以上値下がりしても損失は1億円どまりです。1億円を超える損失分は胴元が被ります。逆に、値上がりすれば1億円の捨て金で数億円あるいは数十億円を一瞬でもうけることができます。まさにバクチそのものです。
 ところでデリバティブ向け金融理論は、すべての企業は業績向上を目指すという前提で成り立つ会社株や社債、誰もが死を怖がるという前提で成り立つ生命保険、故意に交通事故を起こすドライバーはいないという前提で成り立つ自動車損害保険などには適用できるでしょう。なぜなら、これらの金融商品にはいっせいに価格暴落を起こす要因がほとんど存在しないからです。しかしながら、投機対象となりやすい住宅や不動産の購入ローンの証券化商品はデリバティブ金融商品として不向きです。なぜなら、住宅や不動産市場は不況などでいっせいに価格暴落を起こす要因が存在するからです。案の定、米国で2007年後半よりサブプライムローンの証券化商品の暴落がまず起こったのです。全世界でデリバティブ金融商品を販売してきた国際金融資本はこのリスクをあらかじめ予想していたでしょう。だからこそ自分がババを引かないよう、住宅ローンのデリバティブ金融商品を、さまざまな複合商品(CDOやCDS)に組み替えて転売し、おのれに降りかかるリスクの分散を図ったのです。

4.誰が悪いのか、証券化商品の暴落
 今回の世界同時金融危機をもたらした証券化金融商品の暴落は起こるべくして起きたものです。いったい誰が悪いのでしょうか。やはり、それはブラック=ショールズ理論の成立する前提条件を理解できなかった人たちです。つまりBSFの成立する前提条件からはずれる証券化商品を喜々として買った投資家たちです。世界の金融機関で資金運用する人たちは必ずしも統計数学に精通していないでしょう。BSFの本質がわかれば、到底、買えない商品が住宅ローン証券化商品を組み込んだデリバティブ金融商品でしょう。その意味でそれらを買った方が悪い。日本の金融機関は、プライムローンはともかく、少なくともサブプライムローンの証券化商品の危うさには気付いていたらしいので、幸いその被害は少なかったようです。しかし、今はサブプライムローン証券化商品を含むデリバティブ金融商品市場全体への信用がすっかり失われてしまったということです。
 しかし、だからといってBSF理論を全面否定してはならないでしょう。この理論は依然として、企業の株式市場、ハイテクベンチャー株式市場、将来的には知的財産権の売買市場の投資理論には十分有効です。

(やまもと・ひさとし)
16 10月

「日本人ノーベル賞受賞は高い買い物か」

山本尚利

1.手放しで喜べるか?日本人のノーベル賞受賞ニュース
 2008年10月上旬、歴史に残るビッグニュースが舞い込みました。4人の日本人のノーベル賞受賞が決まったからです。2008年度物理学賞の受賞者は、南部陽一郎、小林誠、益川俊英の3氏、化学賞が下村脩氏と合計4人です。誠におめでたいニュースに水を差すよう気が引けますが、この受賞ニュースを手放しで喜んでよいものかどうか、ちょっと待って!と言いたくなります。なぜなら、どうして唐突に日本人が受賞できるのか、今一不透明さを感じるからです。
 そこで思い起こせば、6年前の2002年にも、田中耕一氏、小柴昌俊氏がそれぞれ化学賞、物理学賞に輝いています。とくに、一介の企業サラリーマン研究員であった田中氏にとって、キツネにつままれたような男版シンデレラ・ストーリーだったわけです(注1)。当時の筆者は、彼の受賞に他人事ながら非常に感激したのを憶えています。この当時は何かウラがあるのではないかとはまったく疑いもしませんでした。
 その後、2005年、郵政民営化実現で国際金融資本オーナーに貢献した小泉純一郎前首相にノーベル平和賞を与える運動が、2007年トヨタ自動車出身で元経団連会長の奥田碩氏中心に行われているという報道に接し、最近のノーベル賞には何かウラがありそうだと筆者は疑いを持ち始めました(注2)。

2.中立性に疑いのある最近のノーベル賞
 筆者の専門MOT(技術経営)の方法論のひとつ、リアルオプション理論による技術評価法(注3)にて使用されるブラック・ショールズ・フォーミュラの元祖、マイロン・ショールズ博士(スタンフォード大学教授)は1997年ノーベル経済学賞受賞者ですが、彼の金融工学(投資科学)理論は、今日、米国発の世界的金融危機の原因となったローン証券化商品(CDO:Collateralized Debt Obligation)あるいは証券化ローンの保険付複合商品(CDS:Credit Default Swap)に応用されています。この例から明らかなように、ノーベル賞、とりわけノーベル経済学賞は国際金融資本オーナー(世界的寡頭勢力)に利用されている疑いが濃厚です(注4)。経済学は「沈黙の兵器」のひとつであるという世界的寡頭勢力の考え(注5)とも一致します。
 このようにノーベル賞に疑いをもって再度、今回の日本人のノーベル賞受賞劇をみると、前回2002年当時と極めて類似性が高いと感じざるを得ません。そこでまず、2002年当時のノーベル賞と国際金融資本オーナー(寡頭勢力)の関連性を挙げてみますと、2002年前後に、日本政府の外貨準備高が2000億ドルから8000億ドルと6000億ドル(60兆円規模)も急増しています。本件についてミスター円の榊原英資氏(早稲田大学教授)は「前代未聞の巨額ドル買い介入」と暗に、当時の竹中平蔵氏(経済財政政策担当大臣、金融担当大臣兼務)を批判しています(注6)。つまりこの時期、日本政府は米国覇権主義者の背後に控える寡頭勢力を非常に喜ばす金融政策をとっていたわけですが、この政策は日本の国益に反します(注7)。竹中金融政策のおかげで米国はイラク戦争の財源を確保できたはずです。2002年日本人のノーベル賞受賞劇は日本国民の目をそらす「ほめ殺し作戦」(対日国家ハラスメント)だった疑いが濃厚です。

3.今回の日本人ノーベル賞受賞劇の狙いとは
 さて、今回の日本人の2008年度ノーベル賞受賞劇と国際金融資本オーナー(寡頭勢力)の関連性とは何でしょうか。2008年10月10日のテレビニュースにて同年9月16日(リーマン・ブラザーズ破綻の翌日)から10月10日まで、日銀はおよそ半月(18営業日)でなんと38兆円も短期金融市場向け資金供給公開オペを行ったと報じられました。このオペはまさに米国発の世界金融危機で重傷を負った日本の金融システム維持のための緊急輸血のようなものです。2008年9月30日終値11160円(東証時価総額352兆円)だった日経平均株価が10月10日には8276円(時価総額261兆円)に暴落しました。その差、なんと91兆円です!しかし今回に限って、日銀の38兆円規模の資金供給ではまだ足りないかもしれません。
 この日本企業株の暴落の原因は、主に外人投資家の換金売りといわれています。そのため9月末から10月上旬にかけて、巨額の円需要が生じたということです。日本優良企業の外人持ち株比率は30~50%とみられますので、上記38兆円規模に匹敵する巨額の円キャッシュが外資(ヘッジファンドを含む)の手元に渡っているはずです。
 もし、彼らが手元円をただちに米ドルに交換しているなら、株暴落と同時に円の暴落が起きたはずですが、10月13日現在、円相場は1ドル99円台であり、円安が起きるどころか、むしろ円高傾向にあります。つまり彼らは円に比べて米ドル相場に、より不安をもっており、日本企業株の売却益を米ドルに交換したくともできない状態にあるとみられます。今の彼らは二つのシナリオをもっているでしょう。(1)近未来、米国連邦政府が金融政策に失敗して米ドルが暴落したら、再度、日本の優良資産を買戻しするシナリオ、
(2)公的資金注入を計画している米連邦政府の金融政策が評価されて米ドルの信用が回復したら、手元円をドルに交換し、信用収縮によって生じた損失の補てんに流用するシナリオです。
(2)のシナリオが選択されると外国為替市場にて、外資サイドから猛烈な円売り・ドル買いが起きることになります。しかし日銀が円を買い支えるはずですから、深刻な円暴落は起きないでしょう。ところで日銀は2008年9月18日、FRB(米国連邦準備制度理事会)と600億ドル(6兆円規模)の米ドルスワップ協定(日銀による他国通貨のドル供給は戦後初めての試み)を結んだと報じられています。これは(2)のシナリオを想定して、日本国民へのショックを和らげるための予行演習でしょう。
 上述した2002年前後の日本政府による60兆円規模の円売り・ドル買いオペでは、日本国民の預貯金が米ドルに化けて米国に還流しました(事実上、一方通行の円流出)。今回、上記(2)のシナリオが選択されたらどうなるでしょうか。仮に外資が総額60兆円規模の円売り・ドル買いを行ったら、日銀は米ドルスワップ協定で6000億ドル(1ドル100円と仮定)をFRBから調達して外資から円を買い取り、借りた米ドルを売ることになります。その結果60兆円規模の円がスワップ協定に従ってFRBの手元に残ります。このシナリオこそが今回、日本人ノーベル賞受賞劇で、またも日本国民を煙に巻こうとする狙いなのでしょう。
不景気に苦しむ日本人を元気付けるノーベル賞(4個)は一個あたりなんと15兆円の計算です。2002年のときは、ノーベル賞(2個)が1個あたり30兆円だったが、今回二度目なので、1個15兆円のバーゲンセールだよ、ワハハハ・・と寡頭勢力の高笑いが聞こえそうです。これが高いか安いか、ノーベル賞をことのほか有り難がる日本国民みなさんの考え方次第です(笑)。ちなみに対外債務超過に陥っている米国連邦政府が2002年前後に日本政府に売った60兆円規模の米国債の債務履行をすることはないと考えられます。なお、最近、予測をズバズバ当てて、世間の評価が高まっている副島隆彦氏によれば、2008年現在、日本の対米債権累積総額は600兆円規模に達している模様です(注8)。
(やまもと・ひさとし)

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注1:ベンチャー革命No.23『ノーベル賞受賞者田中耕一主任』2002年10月14日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr023.htm
注2:ベンチャー革命No.230『小泉シンクタンク:トヨタのスモールギフト』2007年5月13日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr230.htm
注3:拙著(共著)[2003]『最新 技術経営評価法』日経BP
注4:本山美彦[2008]『金融権力』岩波新書
注5:ベンチャー革命No.271『情報と技術を管理され続ける日本』2008年9月14日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr271.htm
注6:榊原英資[2008]『強い円は日本の国益』東洋経済新報社
注7:日本政府が巨額の円売り・ドル買いをしても、買ったドルは日本国内では使えないので、結局、米国債で運用される運命となる。つまり当時の竹中金融政策は日本国民の預貯金が国民の知らぬ間に米国債(凍結債権)に化ける売国的金融政策であった。なぜなら対外債務超過に陥って財政破綻しているに等しい米国連邦政府に日本政府が購入した米国債を償還する財力があるとは思えないからだ。
注8:副島隆彦[2008]『恐慌前夜』祥伝社


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