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Tech Venture/テックベンチャー

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ベンチャーキャピタリスト

17 7月

「こんな時期だからこそベンチャーキャピタリストを志してほしい」

秋葉 ダイスケ(ペンネーム)

yubi-20101015最近、日本を代表する某大手企業の研究リーダーのA氏にお話を聞く機会がありました。A氏はある分野の製品で世界最先端を走っており、業界でも知らない人はいないというほどの方です。長年の研究成果はすでに製品になっており、売上も上がっているそうですが、当該事業が会社のコアビジネスではないという位置付けされてしまい、縮小の方向になってしまったとのことです。そのような経緯から、事業継続のためにスピンアウトを検討したいという相談でした。

お話を伺ったところ、A氏が何とか事業を継続させるために八方手を尽くして苦労されてきた様子がヒシヒシと伝わってきます。一方で、会社の経営方針は常に変化します。部下のモチベーションも心配です。取引先にも迷惑はかけたくない。何よりも自分の家族が独立を許してくれるのか?。どうやら会社側は、A氏が独立してその事業を存続させたとしても、事業規模の縮小路線に変化はなく、問題ないというスタンスだそうです。なんと理解のある寛大な会社でしょうか。

しかし、残念ながらA氏には創業プランといえるような計画がまだないそうです。大事なことは会社の設立登記の方法やオフィスの借り方といった形式的なことではありません。このようなことは書店で本を買い求めれば大体のことはわかります。A氏のグループには研究者はたくさんおりますが、会社を経営していくにはその他のスキルを持ったメンバーも必要になります。大きな会社の一グループから独立した企業になるのですから、大きさに見合った事業内容と予算を考えなければなりません。もちろんビジネスモデルも再構築が必要でしょう。そのような時に、適切にアドバイスできる人間がいないのです。

大手企業に所属している方々の多くは(自分もかつてそうでしたが)、独立して新しいベンチャーを作る際にとまどうことが多いと思います。A氏自身も検討する余裕がないような様子でしたし、A氏の独立に協力してあげたいと思っている上司や同僚の方々もいらっしゃるようですが、実際に出来ることは限られています。実は、こんな時にアドバイスできるのは、やや願望思考になりますが、ベンチャーキャピタリストではないかと私は考えます。

「じゃあ、会社をつくったら連絡をしてください」
A氏はあるベンチャーキャピタルの方に言われたそうです。ベンチャーキャピタル業界の人にとっては当たり前のように聞こえますが、本当は会社をつくる前に相談したいことがたくさんあるはずです。それでなくとも、理工系の方々は「とりあえず動いてから考える」ということが苦手なタイプが多いのですから。このような、ちょっとした一言にも、ベンチャーキャピタル側のサポート不足が現れているような気がしてなりませんでした。

さて、日本の多くの優良企業も最初は創業ベンチャーから出発しました。今は投資資金の流れが停滞し、このまま回復しないようにも思えますが、未来を見つめる起業家は前向きに機会をうかがっています。こんな時こそ本当のベンチャーキャピタリストの出番です。「うまくいっている時はだれでもよい投資家になれる。うまくいかないときにこそ、本当によい投資家かどうかを試される。」米国でアーリーステージのバイオ専門に投資しているキャピタリストのコメントです。

必要なのは、情熱を持った起業家と賢明な投資家です。どうしたら創業ベンチャーを成功に導くことが出来るのか。周知のとおり、新興株式市場の株価は7割も下落し、経営者の不祥事が相次いでおり、市場は信じてもらえなくなっています。こうしたVCにとって厳しい時期に、ベンチャーキャピタリスト、あるいはベンチャーを育てようとする金融マンが全国で幅広く活動することを願ってやみません。

6 8月

『自称キャピタリストの多い国』

太原 正裕


私の師匠である(私が勝手に弟子のつもり)、シュローダー・PTV・パートナーズの松木伸男社長は、常々「起業家の問題は、キャピタリスト自身の問題でもある」とおっしゃっています。「投資した頃は、あんな社長じゃなかった。もっと堅実な人だった。それがいつのまにか、浪費ぐせがつき商売がままならなくなった」となどと嘆き、投資先の社長を批判しているベンチャーキャピタリストが結構いますが、この言葉は、本来自分に跳ね返って来るものでしょう。
『そんな人に投資した自分の見る目が無かった、とあきらめ、罵倒している暇があったら、新たな案件に時間を割いた方が良い。』松木社長は、一番最初にファンドに投資してくれた米国人実業家からこう言われたそうです。投資先の社長の人が変わってしまったのも、本来側にいて暴走を止める助言をすべきであったベンチャーキャピタリストの責任でもあります。キャピタリストは本来、単にお金を投資するだけでなく、自分がそのベンチャー企業に参画することにより、その企業にいかに価値をつけることができるか(バリュー・アッドができるか)が、問われるものでしょう。
また、このことは、日本のベンチャーキャピタル業界において"会社組織型ベンチャ―キャピタル"が主流だったため、キャピタリスト個人の能力があまり問われなかったことと、しかも個人能力が磨かれるチャンスが少なかったことが背景にあると思います。おおまかな言い方ですが、キャピタリストが自身のReputation(評判)に非常に神経を使い、Track Recordと呼ばれる「如何に投資先を育成し、成長させ、ファンドの投資家に富をもたらせたか」という「個人記録」で評価され、それによりファンドを募集する時の金の集まり方決定されて来るのが、アメリカのVC。つまり、組織プレーというより個人プレー。成績の良い、ベンチャーキャピタリストが数名集まって、ベンチャーキャピタルを作っています。
従って、ジャッジも早い。特に投資を断る時は非常に早い!。私の知っているケースでは、担当者(アソシエイツ)すぐ上のマネージャー(エグゼプティブ)、その上のパートナーの3名がOKなら、DUE DELIGENCE(具体的な審査)のようなステップへ進む。NOの場合はそこで終わりです。

日本は、組織型として、銀行・証券・生損保の子会社、別会社として設立されてしまったので、個人のキャピタリストの集合体とはなりえず、いわばノンバンクの一形態のようになってしまいました。以前も書きましたが、当然役員、社員には親会社から出向した人が多い。ベンチャー企業を金融機関時代の取引先と同じように考え、信頼してしまう面もあるのでしょうけど、投資したら、あまり深くは投資先に関与しない。時々訪問して、先方の説明を聞くのみ。担当者が1人で何十社も投資先を管理しているので、いちいち深く関与できない、ということがあるでしょう。米国のように、非常勤取締役、社外取締役になるのがベストですが、そうでなくても、毎月役員会に出席し、月次決算の報告を聞く(役員会でオブザ―バー参加を認める決議をすれば可能)、マネージャーミーティングに出席するなどしていれば、「社長が増資した金で、ベンツを知らない間に買った」とか、「知らない間に、増資した金を貸し渋りにあっている銀行へ返済してしまい、すぐ倒産してしまった」というようなことは、起こらなかったのではと思います。また、何せ日本の組織を引きずっているので、担当者の訪問、課長の訪問、部長の訪問、審査部の訪問、稟議書の作成、予備審査会、審査会など長〜い過程を経るので、ベンチャー企業の出会いから投資まで非常に時間がかかります。最近は、大手VCがチーム制を導入し、かなり個人の集団に近い形になり、ジャッジも早くなりつつあります。非常に良いことだと思います。
現在、私は独立系ベンチャーキャピタリストとして活動しております。かつて所属していたベンチャーキャピタル時代に投資したり、応援していたベンチャー企業数社から請われてコンサル契約を結んで、"傭兵"としてその企業に入り込んで、その会社の"準社員"になる形で仕事をしております。先日も、あるコンサル先のマネージャーミーティングに参加しました。独立前も、社長とは少なくとも週1回は会い、3日と開けず、電話や電子メールで逐一報告を受けており、かなりこの会社のことは把握していたつもりでしたが、やはりマネージャーミーティングに出て、いろいろな社員の方の意見を聞くと、会社のナマの姿が本当に良くわかります。この会社は失礼ながら想像以上に、若い社員の方が会社を良くしよう発展させようということに熱心で活発な討議をしており、感銘を受けました。


では、なぜこのようにアメリカと日本で個人と組織というまったく異なった発展形態を歩むことになったのでしょうか?。アメリカと日本の風土の差と言ってしまえばそれまでですが、発展形態の日米比較については多くの著書、論文がありますので、詳しいことはそれに譲るとして、少し別な切り口から考えて見たいと思います。ニューヨーク・ウォール街に、19世紀初頭創業の某老舗投資銀行があります。ウォール街に証券取引所ができた時、4つの証券会社でスタートしたそうですが、その内の一つ。あと、一つはモルガン、残り二つは知りません。何せ、ニューヨークのバンカーが「化石」と呼ぶだけあって、すごい歴史を持ってます。グラス・スティーガル法などが成立する前にできた銀行なので、証券業と銀行業の兼営が今でも既得権(グランド・ファーザー・ルール)により認められております。某有名政治家の親族もここのパートナーでした。ここが、中堅優良企業に投資をする、プライベート・エクィティ・ファンドを運用しております。第1号は(おそらく)数百億円くらいの資金で11社に投資。できたばかりのベンチャー企業には投資せず、既存の優良中堅企業(エグジスティング・グットカンパニー)に投資しており、抜群の成績をあげております。このBBHの担当者も、『きわめて土着の仕事なので、目の届く範囲の会社にしか投資しない。』と言っておりました。

この"土着"という言葉が言い得て妙だと思います。ある、米国の有名ベンチャーキャピタリストは、「ベンチャーキャピタリストという職業は、徒弟制度が残る最後の職業」と言っているそうです。良いキャピタリストのもとで修行するか、良き経営者にめぐり会い、お互いを高めあうことが必要だから、ということでしょう。つまり"職人"の世界なのです。
以前私が書いたように、日本は戦前いや昭和30年代位までは職人、特に腕の良い職人が尊敬されていた国でした。腕のよい職人には、お嫁さんになりたい、という人が大勢来たそうです。職人だった祖父も人を見る時には、『あいつ何をして食べてんだい』と、どこに所属しているかというよりどんな仕事をしているか、ということを気にしておりました。
戦後の経済復興第一に、日本株式会社として突っ走って来た日本は、重化学工業を中心に、未曾有の発展を遂げました。石炭、鉄鋼、家電製品、自動車、工業用ロボット、それを輸出する大商社・・・、時代により主役が変わることもありましたが、いずれの産業も、大手企業やそのグループ会社が政府と協調し産業界として発展しました。企業はこぞって人を採用し、特に幹部候補生として優秀な大学生を採用しました。40年不況やオイルショックなどもありましたが、この右肩上がりの高度成長時代に、人々の評価というか考え方が、「何をして金を稼いでいるか?」から「どこに所属しているか?」に変わって来てしまったのでしょう。
◇○大学を出て、△○省、●◇商事、○□物産、×〇製鉄、▽◇銀行・・・に所属しているだけで、「すご〜い」と褒められた時代が長く続きました。しかも言われた方も、その気になってしまう!。従って、ベンチャーキャピタリストの中にも、『俺は(今は仕方ないけど)◇▼ベンチャーキャピタルに勤めているが、元は○○銀行にいた。▼◎大学を出てそこに就職したんだぞー。』、とか威張っている人がいる(^_^;)。しかも、周りの人間もそんなことを結構評価したりしている(+_+)。ベンチャー・キャピタリストは、あくまで、「有望ベンチャー企業を発掘し、投資し、育成し、成功させ、ファンドの出資者に儲けさせる。そして、さらに新たなファンドに金を集める」能力で評価されるものであります。相撲の世界と同じで、大学の相撲部で実績のある人は幕下付出しが認められる程度で、後は、経歴など関係なく、相撲界、ベンチャー・キャピタル界に入ってからの成績で番付が決まるものでしょう。

キャリアは確かに重要なのですが、組織ベンチャーに浸かり、個人の成績がシビアな目で見られない、また、投資先に対しても他人事みたいな気持ちで接しているような環境では、何年やってもキャピタリストとしての本当の能力が磨かれないでしょう。組織ベンチャー、特に大手企業の子会社へ出向社員としてきているキャピタリストでは、どうしても先ほどの"土着"というほど、投資先に密着できないのでしょう。
ベンチャーの世界で名が通っている人で、新聞、雑誌に良くベンチャー企業、ベンチャーキャピタルに書いている方も大勢おられます。自称、第一次ベンチャー・ブームから、ベンチャー企業にはかかわっている、という方もおられます。先日、私のコンサル先にも、『自分にも協力させて欲しい』と、自称ベテラン・ベンチャー企業支援者が現れました。話してみると、何か話がかみ合わない。どうも、ベンチャー企業を単に「金融商品」として、知り会いの金持ちに投資を薦めている人のようでした。
私が知人に『ああいう人が、テレビとか新聞・経済紙誌上で偉そうな事を言うから、オカシナことになる』と言ったら、『いや、そういう情報がスタンダードになっているから、ちゃんとした情報を持っている人が商売になるのですよ』と笑っていました。そういう人のおかげで、私の所に思いがけない良い案件が回って来る、かもしれませんので、当方としては複雑な心境です。
(たはら・まさひろ)
 

13 4月

『小話風:ベンチャーキャピタリストの問題点(2)』

太原 正裕

3.日本のベンチャーキャピタリスト?

さて、憧れの?ベンチャーキャピタリスト(以下、キャピタリスト)として活動をし始め、1ヶ月もたたないうちに、法政の大学院で学んだ米国スタイルとの違い、松木"先生"の教えとの違いをまざまざと思い知らされる結果となりました。表題に、「キャピタリスト?」""をつけたのも、頭の中が「????」という状態によく陥ったからです。

  (1)モチベーション?

いろいろな案件で一緒になった他のベンチャーキャピタリストの方や、普段親交のあるVCの方と話す機会が多いのですが、俗っぽい表現ですが「不本意キャピタリスト」とでも呼びたくなる人が多いように感じてしまいます。ベンチャーキャピタルを専業としている大手を除くと、登記上は160以上あるというVCの大半が、銀行・証券・生、損保の子会社です。社長は、当然親会社の元常務などが大半で、自分の任期は2期4年か、せいぜい3期6年だと思っている。他の役員、部長さん方も同様でかつ第2の人生であまり気合が入っていない。中堅クラスは、出向者で3年間かもっと早く親会社に戻りたいと思っている。いわば、左遷意識、衛星子会社の感情がある。

例えば、投資先(候補)であるベンチャー企業の創業社長の前で、「こんな仕事早く辞めて、本社へ帰りたいんです」とかいうツワモノまでいる始末。ある銀行系VCの社長なんかは、例のステレオタイプ的情報の受け売りで「どうせ起業経験のない、偽キャピタリストの集まりですから」なんて、語ってました。社長の言としては寂しい限りです。私がキャピタリストが本業です、と言うと、変わった生物でも見るような目で見られることも、しばしばありました。

  (2)未確認情報が大事?

日本のキャピタリスト間では、前章で述べたような、未確認情報が良く飛び交う。まさに、(伝言)情報の受け売り。流言蜚語とまでは言いませんが、「なんだかなぁ〜???」と思うことが多々ありました。一例として、あるVCで"博学"として名が知れているというキャピタリストの方が持ち込んだ案件で、バイオで睡眠障害に効くという薬の話を一つ。

「1日は24時間だが、人間の体内時計は25時間であり・・・」という説明を始めた。どこかで聞いたような話だな、と考えると、前日某テレビ局で見た「特命リサーチ、200X」という番組で放送していた内容と同じ。テレビ情報を、投資の判断基準にはできないので、後から知り会いのお医者さんや薬学博士の方にヒアリングしたところ、「太原さん、あまたある仮説の一つなんですよ。テレビでやるのは、仮説の中でも面白いやつ。頼まれれば推薦の辞を述べる学者もたくさんいるし、しかも後で都合の良いように編集してしまう。お金を託すのにテレビ情報で判断してはまずいですよ」と異口同音のお答え。その他、バイオの案件でも、環境に影響を与えないというバックデータの提出を起業家に求めると「他のVCさんからは、そんなこと依頼されていない」という答えが返って来るようなことも多いのです。

また、上司がある企業を他のVCの紹介で訪問し帰社後、「すごい技術だ。銀行もかなり貸し込んでいるが、あの技術では当然だ。」と興奮している。「その技術がすごい、とどうしてわかったのですか?何か比較するものや客観的データとか、取引先の意見でも聞いたんですか?」と聞いたら、「社長がすごいと言っていた。」とのこと。う〜む…これではショーコになりませんな。以上のようなことがなぜ起こるか、というと、経験科学の基本である、"客観的事実の論理的秩序づけ"が行われていないからでしょう。これは、前章で述べたように、ビジネス・スクールで励行している「必ず、原典、出典などを調査し、できるかぎり客観的証拠かつ、ほぼ事実として定説になっていることを見つけ出す。」作業を怠っているか、そのようなことをしなくてはならないという意識も希薄だからでしょう。キャピタリストの方で、そのような"確認"の意識付けを、日常作業として行っていないと、起業家にも当然伝わりません。ハイテク系の技術評価の部分のみならず、どんなベンチャー企業にも、法的根拠、経営者としての倫理観などは、スタートアップの段階で植えつけないと根付かないでしょう。

  (3)投資行動?

一番違和感を覚えたのは、キャピタリストの方々が「良い会社ある?、最近?」と聞いて来るのは、まだしも「良い案件ある?」と真面目に聞いてくることです (^o^)。やはり、見込みのある企業に投資した上で、創業社長と二人三脚で会社を育てようという、いわゆるクラシック・ベンチャーキャピタル業より、ほぼ仕上がった会社が公開が見えた頃に投資する、「"公開支援投資」を中心とするVCが大半のようです。

VCに10年近く身を置いているという自称ベテランキャピタリストがアーリーステージでの投資を「バクチ、バクチ」と連呼するので、暗い気持ちになったことがあります。投資だけして、後は野となれ山となれ、という状態を自ら認めているようなものです。

私の契約していたVCは、ファンドの金額が小さかったので、米国でいう"ニッチ・ファンド"(ティモンズ博士の分類による)を目指した投資を心掛けました。シーズからアーリーに進み、サンプル出荷の時点を過ぎ、製品出荷まで来ているが、量産はこれから、という状態のベンチャー企業を見つけだし、少額から投資し、自分も経営を助言し、成長ステージ毎に投資して育てるというものです。投資するVCも1、2社でじっくり育てるというもの。ところが、他のVCは、シンジケートローンのように1億円を1千万づつ10社で投資する、というのが当然だと思っている社が多いようです。

 あるベンチャー企業の例です。創業社長と私ともう1人のキャピタリストで次の増資と中期経営戦略を半年以上かけて練り、増資することにしました。増資が行われる、という話がどこからか伝わり、1年前に訪問しただけのVCが数社次々と押し寄せてきましたが、社長と金額や、投資するVCを長い間かけて決めた後なので丁重にお断りすると、「金は多い方が良い」という意見を述べたVCの方もおられました。こちらは、成長ステージに合わせ、必要金額を計算した上での増資でしたので、なにか、いい知れない思いがよぎりました。

また、中堅VC各社似たような傾向があるようですが、社内の審査会でも、他のVCからの紹介案件や、既に大手VCが投資しているベンチャー企業への案件の方が審査を通りやすい傾向にあります。あるVCの若手キャピタリストがシーズ段階からある企業に目をつけ、せっせと通っておりました。するとある日上司から、「そんな事業計画も増資計画も公開見通しもまだこれからの会社には、行かなくていいんだ!」と言われたそうです。

この上司さんは"公開支援"以外しないという流儀が身体中に浸透してしまっているようですね。事業計画を社長が作るのをアドバイスしたり、企業活動が本格化すれば株式公開までいける、また、公開した方がこの会社のために良い、という計画、経営戦略を社長と建てるのが本来のキャピタリストではないでしょうか?

あるいは、良い技術を持っていても、あえて公開企業にならず"スモール・リッチ・カンパニー"を目指した方が良い、とアドバイスするのもキャピタリストの重要な役割だと思います。かつての銀行にも「貸すも親切、貸さぬも親切」という言葉が会ったように、相手の企業の適性を見て助言する必要があります。スモール・リッチ・カンパニ−へのアドバイスだけでは、ほとんど収入にならないという意見もありましょうが、こういうベンチャー企業にアライアンス(提携)の斡旋などをしていると、不思議に(取引先の)良い会社にめぐりあったり商売のネタがどんどん増えることが多く、これは私の拙い経験からも明らかです。ベンチャー企業がシーズやスタート・アップの時代には一顧だにせず、増資があると聞いてから恵比寿顔で押し寄せても、社長とは良い関係になれないでしょう。シュローダーの松木社長も「いくら良い会社でも、社長とキャピタリストの"ウマ"が合わない場合は投資しない。投資以降、長い付き合いになるからである」と常々おっしゃっています。

  (4)インプリンティング

こういった(1)から(3)のようなミョーなことがなぜ起こるのか、前から常々うなっています。私にとっては違和感のあることでも、他のベンチャーキャピタリスト方には当然のことではないかとも感じています。何か理由があるんじゃないかと考えました。卑近な例ですが、ゴルフも一番最初に教えた人により、大きな影響を受けます。特にマナーの点は、最初にきちんと教わらないと、後からではなかなか治らない。私は、ビジネススクールで清成総長や松木社長から教えていだたいた事が、初期体験として根強く身体に吸収されました。それと同じでして、日本のベンチャーキャピタリストにも、そのような「刷り込み」(インプリンティング)が起きているわけではないかと思います。この問題の解決には、モチベーションの高いうちに、コンファームされた正しい情報(知識)を吸収し、松木さん、村口さんなどの体験を多くの人の体験として、再体験できるシステムを構築することが重要でしょう。

 

4.真のベンチャーキャピタリスト

先日、米国のクリントン大統領が来日したさい、TBSテレビで一般視聴者と対話するという企画がありました。大阪のオバハンが不倫についてガツンと言ってやつた、と言う話ばかり喧伝されましたが、私はクリントン氏の言葉からドッカーンという衝撃を受けました。

それは…、クリントン氏が、日本の景気回復策と21世紀に向けての経済システムの構築について聞かれた時に、彼は「日本には良いベンチャーキャピタリストがいない。」という短いフレーズを発したからです。GDP世界1位の国の大統領が世界2位の国を的確に叱ったような、妙な気分になりました。

二度と大統領に、日本国のことでガツンと言われないよう、日本のキャピタリストの将来について、最後は楽観的な見通しを述べて拙文を終わりたいと思います。幸いにして、日本もようやく「投資事業有限責任組合法」が成立し、米国のLPS(リミテッド・パートナーシップ)に近い形のファンド設立が可能になりました。また再三引用させていただいた村口さんのような、若くて優秀なキャピタリストが運営する、独立系のVCが続々と誕生しています。また、ビジネス・スクールも各大学にようやく講座が設けられ、1995年に広く数えても全国で5つしかなかった、ベンチャーに関連する講座が1999年度には40以上も出来たそうです。そして、ビジネス・スクールで体験軸を太くしたくても、その機会になかなか恵まれない人のために、このようなTech-Ventureのような情報ツールが生まれました。インターネットも一面はがせネタの宝庫ですが、うまい使い方をすれば知識の源になりますね。

独立系VC支援のための、"日本版SBIC"の法案も国会を通過しました。キャピタリストが海外へ体験研修に行く際の助成金もすでに、ワークしております。本来、成功したキャピタリストのもとで修行するのが、一番よいのですが、そのようなチャンスに恵まれなくても、他人の経験から学ぶシステムがようやく整いつつある現在、未来に光が見えてきたように思います。

また、パトリコフなど海外の有力なベンチャーキャピタルが日本へ進出してきました。日本の子会社VC勢も、出向社員ばかりでなく、コミッション契約、インセンティブ制をともなった"ベンチャーキャピタリスト"としての採用が、今後増えると思います。その中から、実績を上げたキャピタリストに金と人が集まる時代が、ようやく、もう少しで手の届くところまで近づいた気がしますが、いかが思われるでしょうか。

(たはら・まさひろ)
 



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