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Tech Venture/テックベンチャー

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米国のベンチャーキャピタル(小野正人)

28 11月

「米国のベンチャーキャピタル − 通説と本質 −(3)」

小野 正人

第3回 (VCが機能するアメリカ)
(1)莫大な富の創出
米国ベンチャーキャピタルは、1991年を底に停滞期を脱し93年から再び大きな投資ブームが到来した。第一次(1967〜69年)、第二次(1978〜87年)に次ぐ3回目のブームである。
今回のブームは、米国のハイテク好況、とりわけエレクトロニクス、情報通信関連の先端産業の成長が背景にある。マイクロソフト、インテル、サンマイクロシステムズに代表される、かつてのベンチャー企業の活躍が、NASDAQ銘柄を中心に証券市場を牽引している。NASDAQのIPOは、1995年が476件(発行額167億ドル)、96年には680件(同245億ドル)と2年連続で史上最高の発行額を記録し、97年は少し落ち着き494件(同194億ドル)となったが、それでも高水準である。
こうした中で、米国ベンチャーキャピタルの投資企業でIPOを実施した企業は、1995年は183件(発行額67億ドル)、96年は276件(同121億ドル)、97年は134件(同50億ドル)となった。VC投資が停滞していた90年前後の時期には、VCの投資した企業のIPOは40件前後、調達額は10億ドル前後であったから、96年の調達額は当時の10倍以上に増えたことになる。
VCの投資額も、1995年は71億ドル(前年比36%増)、96年は94億ドル(同32%増)と急増した(図6−3)。また、VCの資金調達もきわめて活発で、96年の資金調達額は90億ドルと資金調達額、投資額ともに過去最高を突破している。この2、3年の間に米国の年金基金、金融機関などの機関投資家がVCファンドに対する投資ウェイトを高めたことが第一の理由である。例えば、世界最大の年金基金であるカルパース(California Public Employees' Retirement System、CALPERS)は、1997年時点で84の未公開株式ファンドに54億ドルのコミットメント(投資する契約)を行っている 。
収益面でも、VCファンドは莫大な利益を計上している。全米のベンチャーキャピタルが新規投資する企業は年間320社程度(1991〜95年の平均)であるが、これが95年には183件、96年には276件がIPOを行っているわけであり、この2年間は極めて高いヒット率であることが容易に推定できる。こうしたIPOにまで達した投資先企業の株価上昇によって、VCは多額のキャピタルゲインを得ており、VCの収益率は1980年代末の停滞期に比べて格段に向上している。1995年の調査によると、VCファンドにおける95年の収益率(ネットIRRベース)は、ファンド全体の平均値が年率53.3%と、93年(19.1%)、94年(16.7%)をはるかに上回っている(前掲・図6−2)。なお、この53%という数値は一部の優良ファンドではなく、全米539本のVCファンドの平均値である。
歴史的にみても、ファンドの投資収益率は好不況に大きく左右されるが、1995年の高収益は80年代初頭のベンチャーブームに匹敵する。ベンチャーは創業直後の段階でVCから資金調達するが、その際の取得価格は大半が一株数十セントから1ドルであり、VCはこうした株を十万株単位で取得しており、投資したベンチャーが公開まで漕ぎつけた段階でVCが得るキャピタルゲインは推して知るべしである。かくして成功企業に投資できたVCは、含み資産が大きい分だけ高リスクの投資案件にも積極姿勢がとれる。このようなVCは、懐の余裕が深いという意味から「ディープ・ポケット」(Deep Pocket)と呼ばれている。

今回のブームにより、ベンチャーキャピタルは次のような莫大な利益を得ている。
IPOによるキャピタルゲイン
IPOに到達したベンチャーの株式は、その半分以上がVCにより所得されていることが多く、VCは今回のブームによって巨額のキャピタルゲインを得て、前述のような驚異的な収益率を実現している。VCがベンチャーから取得する株式の価格は、アーリーステージで2ドル未満、レイターステージで2〜5ドルが一般的である。米国ではIPO時点の公開株価は大体7ドルから20ドルの範囲内であるから、ベンチャーが公開まで漕ぎつけた段階でVCが得るキャピタルゲインはざっと数倍から30倍という計算になる。
アフターマーケット
加えて、IPO後の株式市場(アフター・マーケットと呼ばれる)でも株価が上昇する会社が続出した。例えば1995年のNASDAQでは、ネットスケープ、ベリティ、スパイグラスのように株式を公開した後の数ケ月で株価が200%以上も上昇した企業が9社もあった。この結果、ベンチャーキャピタルのキャピタルゲインは公開時点よりさらに膨らんだ。
管理手数料収入
ベンチャーキャピタルには3年連続で前年比30〜40%増の資金が流入している。VCが投資家から得る管理手数料は通常運用資産の2〜3%であり、これだけだけで莫大な収入が計算できる。1997年にVCは米国全体で90億ドルの資金を調達したが、この調達資金の管理手数料だけでVCの収入が2億ドルも増加した計算になる。
ごく単純に図式化すると、ベンチャーの成長→IPO市場の活況→VCファンド利益率の上昇→VCファンドへの資金流入→VCのベンチャー投資の加速→ベンチャーの成功件数が増加、という理想的なサイクルが回っている。かくして成功の循環を実現できたベンチャーキャピタリストの報酬はうなぎ登りとなっている。最近の調査 によると、1996年のベンチャーキャピタリストの年収は、大手VC6社平均で前年比31%増、ジェネラル・パートナー(シニアクラスの地位)で平均227万ドルと2億円を超え、ジュニア・パートナーの年収でも平均58万ドルであるという。ちなみに、97年冬にシリコンバレーのあるVCから送られてきたクリスマスカードの文章をみて頂きたい(下図)。これは多少揶揄したものであるにせよ、彼らの謳歌が伝わるであろうか?。
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 ただし、現状の米国ベンチャー経済は、多くの面で高株価を前提とした仕組みで動いており、かなりの歪みがあると筆者は考えている。VCが大量の資金をベンチャーに投資するのも、優秀層がベンチャーに集まるのも、各種のビジネスインフラが積極的にベンチャーを支援するのも、すべて現状の株価水準であれば「うまく儲ける」からこそである。
すべて現在の高株価を暗黙の前提にして過大な期待収益率を持った資金が株式市場に流入し、大幅赤字のハイテクベンチャーでもIPOが実現するから、それを前提にVC等の投資家は高い株価のベンチャーにも多額の出資を行っている。
一例を挙げれば、ベンチャーがIPOした時点のPBR(株価純資産倍率 )が数十倍の企業が少なくない。あるいは、ベンチャーが外部から雇ってきたCEOの年収が30万ドル、もらうストックオプションの将来価値が数百万ドルもあるという。これはどこかおかしいと思わざるをえない。1998年から米国株式市場がベアマーケット(弱気相場)に入りつつある中、米国VC産業は大きな調整局面を迎えている。これまでのような理想的サイクルが一変しかねないと思うのは筆者だけではなかろう。
 
(2)VC的ベンチャー育成法
・Full Service
米国のベンチャーキャピタルは、金融業であって金融業でない。VCを形式的に言えば未公開会社投資業であるが、中身は金融機関と全く異なる。米国のVCは、投資の段階でリスク、リターンの高低を判断するよりも(もちろん考慮しないわけではない)、ベンチャーのハイリスクを投資後に「リスクを低く仕上げる」ことを指向する。すなわち、VCが自分の経験・能力・ノウハウや人脈を使ってベンチャーを株式公開が出来るまで成長させる機能である。ベンチャーキャピタリストの多くはベンチャーの経営陣出身、ある意味で業界の顔役であり、投資したベンチャーを自分のネットワークと影響力によって支援する。
言い換えれば米国ではベンチャーの経営者の上にVCという「みかじめ役」がいる。シニア・プレーヤーたるベンチャーキャピタリストが、ルーキー(すなわちベンチャー経営者)をあらゆる面の指導(フル・サ―ビスとか、モア・ザン・マネーと呼ばれる)に努めているのである。
米国のベンチャーキャピタリスト達は、仕事の半分を投資先の支援に費やしている。VCのパートナーであれば、実動時間の50%を投資先を育成するための諸活動に当て、30%が案件発掘や初回投資の決定までの仕事、残り10%が産業企業情報の収集、10%が社内の管理作業という 。対する日本のベンチャーキャピタリストはどうであろうか。筆者の推測だが、案件発掘に当てる時間は全体の50%、社内会議、内部管理資料作成、その他雑務に40%、投資先の支援は10%以下が平均であろう。
 
・Stay Close
VCは時間と労力の要る商売であり、費用がかかる分ハイリターンに仕上げなければ元が取れない。ベンチャーの経営指導は一筋縄ではないけれども、VCはリード・インベスターであれば、ベンチャーを実務まで指導するのが普通である。他の投資家とは違って、業界の親玉クラスのベンチャーキャピタリストが日常の業務にまで入り込んで(Stay close)問題点をつかみ指導する。
通常のベンチャーでは、社外の投資家にボードメンバー(社外取締役)の枠が1〜2名用意される。リード・インベスターとなったVCは、担当のパートナーが社外取締役に就任し、最低2ケ月に1回は開催される取締役会に出席する他、要所要所の経営に嘴を入れる。実際、ベンチャー経営者にとって、「VCは強烈な注文をつけてくる恐い兄貴達」というような表現を良く耳にする。
したがって、VCは投資先の経営状態を常に把握している。仮に経営が悪化しても破綻に至るプロセスは(手の打ちようがなくとも)わかっている。日本では、投資先の月次収益や資金繰りをきっちりつかんでいるベンチャーキャピタリストはそれほど多くない。ある日突然投資先の経営が悪化してあわてるケースがある程である。
 ・Super Dealを探せ
VCの収益は、投資案件を高い投資倍率で回収することに尽きる。ことにスーパー・ディールと呼ばれる高成長企業を生み出すとVCファンドは大成功が約束されるから、ベンチャーキャピタリストはスーパー・ディール候補を懸命に発掘する。過去に一流と目されるVCは、すべてこのスーパーディールを実現した実績があるからである。1980年代では、サンマイクロシステムズ、オラクル、コンパック、デル、シスコシステムズがスーパーディールの代表例であり、95年以降では、ネットスケープ、ヤフー、アマゾンドットコムがあげられよう。
例えば、セコイア・キャピタルは、1995年にヤフーのSeries A 、Series Bに出資しているが、Series Aにおいて1株0.2ドルで487万株、Series Bでは1株1.97ドルで51万株を取得している 。セコイアは合計200万ドルをヤフーに投資した訳だが、1996年4月のIPO時点で株価は24.5ドルの初値をつけた。この初値で計算すると、セコイアの投資は1億2,600万ドルの価値を生み、倍率63倍の投資となった。さらに97年以降もヤフーの株価は上昇し、98年6月には1株100ドルを突破した。IPO後もセコイアはヤフーの株式を保有しており、その投資倍率は上記の63倍をはるかに上回るものと思われる。
このセコイア・キャピタルの例でいえば、ヤフーへの投資だけで大型VCファンド1本分の出資額が軽く回収できる計算になる。このように、スーパー・ディールを生めるが否かでVCとしての成功が決まる。ベンチャーキャピタリストが懸命になるのは当然である。
・"Vulture" Capital
それだけ手塩にかけるのがVCたるゆえんであり、実際VCは数年内にIPOの可能性がないベンチャーには見向きもしない。VCにとってベンチャーの企業価値が数倍以上にならなければ投資する意味はなく、ベンチャーを実際にそれだけ高成長させるためにプレッシャーをかける。問題企業に対して、経営者のすげ替えや会社売却もいとわない姿勢はバルチャー・キャピタル(Vulture Capital、ハゲワシのように強欲という意味)と批判される。
・Keiretsu
もう一つ、米国のベンチャーキャピタルは、アライアンス(Alliance、提携)という言葉を良く使う。ベンチャーは、ライセンス契約や販売など他企業と提携なくして急拡大することは難しい。VCは、親玉たる自分のネットワークを提携に活かしており、VCがベンチャーに投資する以前にベンチャーと組む企業を決めているケースも少なくない。
最近では「ケイレツ」という日本語がVC業界に登場している。これを使っているのは、シリコンバレーに本拠を置くトップVCのクライナー・パーキンス(Kleiner Perkins Caufield & Byers、KPCB)である。クライナー・パーキンスは現在まで投資してきた200社近い企業との互恵関係を自分達の持ち味と誇り、自社のホームページで「ケイレツ」ビジネスを数頁にわたって解説している 。同社は、1996年夏に総額1億ドルのJAVAファンドを設立した。文字どおりJAVAの商品化によって生まれるベンチャーへの投資を目的としたファンドであるが、多数の機関投資家向けに広く募集する通常のVCファンドとは違う仕組みである。これは、もともとJAVAの開発部隊が属していたサン・マイクロシステムズと、ネットスケープ、オラクル、コンパックなどJAVA関連のベンチャーと提携を考える元ベンチャー企業(これらの大部分は過去にKPCBが投資した企業である)とKPCB自身、合計11社が資金を拠出したファンドである。ファンドの目的は投資収益だけではない。11社が共同でベンチャーを見つけ、開発や提携を検討し、あわせて自社にも活かそうとする資金のプールがJAVAファンドである。
現在の米国では、過去につながりのない投資家がVCに出資を申し出ても全く相手にされない。言い値で投資家が集まる猛烈なベンチャーブームのせいでもあるが、VC自体が投資家に期待するものが単なる資金だけではなくなっている。VCは先のような「ケイレツ」をベンチャーや大企業だけでなく、VCファンドへの投資家にまで期待している。例えば、VCは有名大学のファンド出資を重要視するが、これは大学のファンド出資者としての魅力もさることながら、大学とのネットワークがベンチャー投資に欠かせないと考えているからである。

(3)シリコンバレーの強み
シリコンバレーは、投資を行うベンチャーキャピタルにとっても世界最高の環境である。次から次へと生まれ出る起業家、エレクトロニクス・通信では世界最高水準の大学・研究所・企業の集積、濃密な人的ネットワーク、車で1時間以内でほとんどのベンチャー・コミュニティにアクセスできる密集地帯、都会へもリゾート地にも近い温暖な郊外が広がる。世界中のベンチャーキャピタルにとって垂涎の地といえるのではなかろうか。
少し具体的にみてみよう。シリコンバレーのVCは、大きく2ケ所に集まっている。一つは、サンフランシスコ市内のフィナンシャル・ディストリクト。もう一ケ所がサンドヒルロード、名にし負う「VCの聖地」である。フィナンシャル・ディストリクトは、かつてはウオールストリートと並び称された伝統的な金融街であり、銀行、証券会社、インベストメントバンクが密集している地域であり、投資家たるVCが集まるのは自然な成り行きである。
・インフラの密集地帯
しかし、シリコンバレーの北部、メンローパーク市の高速道路(280号線)のインター横にあるわずか数百メートルのサンドヒルロード一帯にトップクラスのVCが数十社も軒を連ねているのは、何とも不思議な光景である。
ベンチャーを支えるインフラが、集団毎に隣接し、コンプレックスを形成しているのが、シリコンバレーの特徴である。VCはサンドヒルロード、法律事務所はページミルロードに集まっている。シリコンバレーは、車ですぐ行き来できるだけに、お互いの訪問・接触がきわめて楽で、常時集まってコンタクトを取っている。この密集と人間関係は、生態系(Habitat)と良く言われるように、世界に比肩するものがないシリコンバレーの強みである。
・VCコミュニティ
我々からみてさらに奇妙に思えるのは、彼らVCが同じグループ会社にいるように、一つのビルや隣のビルに同居し、ビルの中のカフェテラスで昼食を取る。テラスで会えばお互い声をかけ合い、世間話から投資案件のシリアスな話までつながっていく。とても競争相手のように見えないのである。日本の会社なら同業のVCと同じビルには入らないし、話をするにも探りを入れたり鎌をかけたりが普通である。
・クラブ的コミュニティ
一言でいえば、厳しい競争を行いつつも、フランクな人間関係に支えられた「VCコミュニティ」である。ベンチャーキャピタリストの商売は、個人の実力と人脈がものをいう。肩書ではまっとうに勝負できないのがこの地の常識であり、彼らも肩書に寄りかかろうとは思っていない。
・実力別の階層がVCに存在
腕の立つベンチャーキャピタリストは実力のある者同士で仕事をしたいと思っている。実力に裏付けられた評判がモノをいうのがアメリカのビジネス社会である。VCの投資は、トップクラスのVC同士で取引が行われるケースが多い。それは、トップクラスVCの成功確率が高いというコンセンサスがあるからである。トップクラスは実力を認め合うVCと一緒に投資を行いたい。その成功確率が高い実績が既に存在するから、優良な投資案件もトップクラスVCに集まる。自然、それ以下の実力のVCは一流の案件には入りにくく、二流以下のVC同士でのディールが増えざるをえない。
 
(4) 米国型VCは日本にとって「遠い憧れ」か
こう述べてみると、日米VCの彼我の差異はあまりにも大きすぎて、どうも近づくのは相当難しいそうに感じるのは筆者だけではなかろう。
もちろん米国型が絶対正とはいえないが、リスクマネーを組織的に供給し利益を得ていくビジネスの観点から、日本のベンチャーキャピタル産業の課題について少し問題を提起してみたい。
・ 日本のVC投資手法がハイリスク投資に向いていないのではないか。
前述のように、米国のVCファンドは個人の集まりであり、責任、権限、報酬が個人に直結している。その単純・直接的なVCのスキームがしっかり行われていることによってエージェンシー機能がうまく働いていると考えられる。
パートナーシップは、運営するジェネラルパートナー(GP)が個人であり、GPの投資行動が直接GP個人のリスクとリワードにつながる。日本のVCは、リミテッド・パートナーシップは擬似的に導入したが 、GPが個人でなく会社である。意思決定から成功果実の分配まで社内の合議で決められており、その分担分配がきわめて不明確であり弊害が広く実務に及んでいるのではなかろうか。
また、VC会社の多くが金融機関の関連会社であり、意志決定は親会社の経営政策に影響される部分が大きい。現状では、彼らVCの資金の源泉たる株主や保険契約者の意向をきちんと反映しているとは断言しにくい。
以上の複雑な構造がVC産業のベースにあるために、「投資家から預かった資金をベンチャー投資によって有利に運用する」という使命を、日本のVCは充分に果たしていない可能性がある。
・規律の弱い資金がVCに流れたのではないか。
VCは、投資家から委任された資金を運用するエージェントであり、VCは投資先を投資家に代わって代理監視すべき存在である。しかし、第三次ベンチャーブームでは、銀行、証券、保険等の金融機関がこぞってベンチャー企業向けの投資融資を急拡大させた。VCと競合したのは他のVCだけではなく、保険会社の出資や都銀・地銀の融資であった。これらの会社はベンチャーに資金を提供したのは良いが、その後にベンチャーの経営を適切にモニターしているとはいえず、実力不足のベンチャーを水脹れさせた投融資もかなり散見された。
・日本のベンチャーは間接金融に支えられているのではないか。
日本ではVCの他にも豊富な資金がこれまでは存在した。すなわち銀行貸付と手形等の企業間金融である。しかし、1997年以降の間接金融の激震がベンチャーの経営を揺るがしている。頼むべき銀行や取引先大企業が引き上げ始めたら、ベンチャーはひとたまりもない。 
・ 企業育成は、VCよりも他の関与者の方が優れているのではないか。
日本の場合は、大企業や商社、銀行の企業育成能力が高い。いささか揶揄した言い方であるが、日本のVC投資は"Piggy-back Investment" 、つまり、他の企業や銀行をアテにした追随投資が多かった。
ファイナンスはビジネスと一体であり、ベンチャーキャピタルだけが変われば世の中が発展するものではない。ベンチャー企業、ビジネスインフラの進歩と並行してVCも発展していく。今後、日本のVCが一皮剥けた存在になるためのキーポイントは、実力のある個人が集まり、独立した米国型ベンチャーキャピタルを組成し、充分な投資収益をあげて成功できるかどうかが重要ではなかろうか。独立型VCが今後の日本で発展し、彼らが日本のVC産業構造を米国型に近づけるという仮説を、期待を込めて予想したい。
(おわり)
26 11月

「米国のベンチャー・キャピタル −通説と本質ー(2)」

第2回 (ベンチャーキャピタルの活動)

(1)投資対象
ベンチャーキャピタルの投資する業種は、コンピュータ・通信系の比率が高い。ソフトウェア/サービス、通信、コンピュータ機器・システム、その他エレクトロニクスの4業種で51%に達する(表6−2)。バイオ・医療系への投資は1980年代ほど活発ではないが、それでもバイオテクノロジー、メディカル/ヘルスケア関連の2業種で19.5%を占めている(96年)。米国VCの投資先は大部分がハイテク・ベンチャーであることがこの比率ではっきりしており、その他の製造業や流通、サービスの割合は2割程度である。
地域的には、カリフォルニア州、マサチューセッツ州が、投資額の35.3%、8.7%を占め(1996年)、他州を圧している。コンピュータ・通信系、バイオ・医療系のハイテク・ベンチャーの大半がこの2州に立地しているためである。この2州以外は全体の5%未満のシェアである。バイオ・医療ではバージニア、ノースカロライナ、メリーランドの中部大西洋岸地域が目立つ。
米国では、ベンチャーの成長段階を製品開発段階をもとに区分している。成長段階別にみたVCの投資構成をみると、ベンチャーの設立段階や設立後時間がたっていない時点、すなわち米国の定義でいうシードからアーリーステージの段階に投資する割合が投資額全体の3〜4割を占めている。例えば1995年の構成比でみると、シードが全体の4%、スタートアップおよびアーリーステージで23%、レイターステージが42%、買収が20%、その他が11%である 。
 
(2)資金調達
ベンチャーキャピタルの資金調達額は、ベンチャーブームの中で19933年に25億ドルであったものが、94年から急増し96年は66億ドル、97年には90億ドルに達している。ベンチャーブームの中でVCファンドの収益率が高くなり、年金基金や事業会社が続々とVCに資金を投入しているからである。また、ベンチャーファンド1本当たりの調達額も増加傾向にあり、1996年はファンド1本当りの調達額は9千万ドルとなった(93年は5.5千万ドル、95年は5.2千万ドル)。
1970年代までの米国のVCは、ベンチャーキャピタリスト個人やベンチャーと人間関係の深い個人が出資する「投資クラブ」のような組織であったが、80年代以降には次第に機関投資家の出資比率が高まった。現在のベンチャーファンドへの出資者を業種別にみると、年金基金が最大の出資者(1996年の構成比45%)であり、次いで財団・大学等の基金(同20%)、事業会社(18%)、個人・家族(7%)、保険・銀行(6%)、海外投資家(4%)である。かつての出資者構成を1978年のデータでみると、個人・家族(構成比32%)、海外(同18%)、保険・銀行(16%)、年金基金(15%)、事業会社(9%)と、この20年間で調達ソースは様変わりしていることがわかる。言い換えれば、年金基金がメインの資金供給者になるという「ベンチャーキャピタル・ファンドの機関化現象」が進行した。
年金基金は、純粋な運用収益を狙ってVCに出資する機関がほとんどであり、出資額の規模も他よりかなり大きい。それだけに運用環境によって投資姿勢の変化も大きく、VCファンドの運用姿勢に大きな発言力を持っている。しかも、年金基金のファンドマネジャーは自身の運用力が2〜3年の期間に評価されることが多い。このため、年金基金は出資したVCファンドに対して、ファンドが満了するまでの10年間での総合収益評価ではなく、3年程度の短期間でも一定以上の収益率を要求する傾向がある。このため、VCでは、アーリーステージの企業に投資し数年間育成していくという伝統的な投資スタイルを維持することが難しくなり、レイターステージ企業への投資やバイアウト投資 を目的としたファンドを増やすVCが増えていった。
財団・大学等の基金も、ベンチャーファンド資金の安定供給源である。VC自体の発展が大学教授陣との関係が深いものであった歴史的経緯もあるが、米国の大学がビジネス、特にこうしたベンチャービジネスや民間の研究開発への関与を積極的に認め、自らも大学財政のためにファンドに出資する姿勢は、日本とは全く異なっている。
 
(3)投資回収と投資収益
●投資回収方法
米国では、ベンチャーキャピタル・ファンドの投資株式を現金化する手段(Exitと呼ばれる)としては、
1.IPO(株式公開)による株式市場での売却
2.M&A(他社による投資先の買収)
3.セカンダリーセール(Secondary Sale、他の株主への株式市場外での売却)
4.投資先企業による買い戻し(Buy-Back)
が行われる。最も多いのはIPOで、買収が次いでいる。当然のことながら、IPOによる売却は多額のキャッシュを得られ、VCが投資回収手段として目標に置いている。買収も重要な手段である。バイグレイブ、ティモンズ、"Venture Capital at the Crossroads" によると、全米の26のVCファンドにおける1970〜82年の投資回収件数はIPOが30%、買収が23%、6%が買い戻し、9%がセカンダリーセール、残りの32%が償却・倒産であったという。単純計算すれば、投資した会社全体でIPOする確率は30%、倒産する確率は3分の1である。
当然、IPOが最も投資企業の価値が高く、セカンダリー・セールや買い戻しは投資先企業が好調でない場合が多いから株価が低い場合が多い。したがってIPOが回収金額全体の7〜8割を占めていることになる。
ただし、それぞれの回収方法の割合は、マーケットの状況により大きく変わる。たとえば、NASDAQ市場が落ち着いた1997年には、全米でVCの投資企業のIPO件数が134件であったのに対し、VCが投資した企業のM&Aが111件も行われている。
●成果の分配
新しくファンドが設立されると、出資者(リミテッド・パートナー)が一定額の出資を約束する(コミットメント(Commitment)と呼ばれる)。コミットメントされた投資額は、設立後2〜3年以内に分割して払い込まれる。その後、ファンドの投資先企業が株式公開されると、ファンドを運営するジェネラル・パートナーは、株価の状況を勘案しながら株式市場で売却し現金化するか、株式のままリミテッド・パートナーに分配(現物分配)する。
買収やセカンダリー・セールのようなIPO以外の回収手段では、VCファンドが株式を売却して現金化した時点でリミテッド・パートナーに分配する。
●ファンドの収益率
米国のVCは、出資者たるリミテッド・パートナー以外には具体的な経営情報を開示しない。VCはパートナーシップであり株式公開企業でもないから、世の中に公開されている情報以外の経営情報を調べることは不可能である。したがって、大ヒットしたベンチャーの投資家、支援者としてのベンチャーキャピタルの伝説は世に広まっているけれども、VCの実態については他の投資会社や金融機関ほどの情報は得られない。
では、投資家はどうやってVCの投資パフォーマンスを得るかというと、専門に投資情報を提供するコンサルタント(ゲートキーパー(Gatekeeper)と呼ばれる)や調査会社がそれなりに存在しているからである。米国でも、ベンチャーキャピタルに関する情報が蓄積されたのは1980年代以降である。例えば、全米のVCファンドが毎年どれだけの投資収益率をあげているかについて、はっきりしたデータは得られるようになったのは80年代後半である。この時期には、年金基金や事業会社のような機関投資家が相次いでVCに出資するようになり、彼ら機関投資家側からベンチャーキャピタルに対して、VCファンドの活動状況や収益率などのパフォーマンス数値を開示する要求が高まったことが背景にある。
先にあげたゲートキーパーは、年金基金のような機関投資家を顧客にした投資運用コンサルタントである。VCファンドのような未公開株投資の運用手段について助言をしている会社には、Abott Capital Management(ニューヨーク)、Alliance Capital Management(カリフォルニア州) 、Cambridge Associates(ボストン)、Frank Russell Company(ワシントン州) などがある。ゲートキーパーのサービスは、顧客の運用資産における適切な未公開株式やVCファンドの投資割合や、期待できるVCファンドや未公開銘柄の推薦、全米のVCファンドの調査・評価などである。
VCファンドの投資収益率は、株式売却により受け取った現金と、ファンドで保有する株式等の投資資産の市場価値、および未投資の現金について、IRR(内部収益率)を使って収益率を計算する方法が一般的である。
VCファンドにとって、IPOが投資先企業の株価を数十倍にまで高められる手段である以上、IPOできる企業をどれだけ作るかで投資収益率は大きく変わるし、全体でみればIPO市場の状況により投資収益率も乱高下する。
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上の図は、ベンチャー・エコノミクス社のデータを一部加工して作成した各年ベースの投資収益率(ネットIRR )である。図のように、第二次ブームの1970年代末から80年代初頭は年30%以上の高収益率であるが、その後90年までは1ケタ台の年がほとんどで、95年以降再び大ヒットしている。収益率は実に変動が大きい。なお、前述の"Venture Capital at the Crossroads"によると、年100%というような伝説的な収益率は実際は一部ファンドの瞬間的な数値であり、複数の調査から考えるとVCファンドの収益率は中期的にみて10%台が多く、時代によって20〜30%の時期があると述べている。長い目でみると、VCファンドの平均的な収益率は驚くほどでもない。しかしファンド間の収益率の格差は大きく、例えば1997年のベンチャー・エコノミクス社の調査 によると、上位25%のファンドの収益率は下位25%の2.7倍も高いのである。
(続く)

 
25 11月

「米国のベンチャーキャピタル − 通説と本質 −(1)」

小野 正人

第1回 (ベンチャーキャピタルの機能)

(1)ベンチャーキャピタルとは何か
シリコンバレーは、毎日何社かのベンチャーが設立され、毎週のようにIPO(株式公開)にこぎつける成功企業が現われ、その度に多くのミリオネア(億万長者)が生まれている。
なぜ世界中からシリコンバレーのハイテクベンチャーに人材が集まってくるのだろう。ベンチャーに「ひと儲け」できる可能性があると考えているためである。ベンチャーも外部からカネが入ってこなければ立ち上がりようがない。その一番大事な資金を出すのがベンチャーキャピタル(VC)であり、当然米国のベンチャーインフラで真っ先に考えるべき機能である。
日本では、以下のように言われることが多い。
●アメリカのベンチャーキャピタルは、ベンチャーのスタートアップに深く関わり、資金だけでなく様々な支援を行って成功に持ち込む。
●VCは、リスクをいとわない。ハイリスクの事業計画でも、債務超過でも、大成功する可能性があれば果敢に投資をする。
●VCは、起業家のことを真剣に考え、ベンチャーの困難を助けてくれる。
● VCは、ハイテクベンチャーの経験豊かな人間が少数精鋭で運営しており、即断即決、果敢な判断をするスーパースター達である。
これらの表現が根本的に間違っている訳ではないが、現象面に目を向け過ぎていて、VCの本質はあまり述べられていない。以下で、あえて原点に戻ってVCの機能を整理してみよう。
ベンチャーキャピタルは、外部の投資家から資金を集めてベンチャーに投資して収益を得る事業である。VCは投資家(すなわちファンド出資者)から委託された資金を運用するエージェントであり、VCは投資先を投資家に代わって監視して利益が得られるように投資先に働きかける(図6−1)。したがって、VCは、投資先ベンチャーの行動を投資家の利益に合致させるべく行動することが最大の目的であり、VCは目的や立場がベンチャー側と決して同じではない。繰り返すと、VCのベンチャー投資の目的はファンド出資者の期待する利益を実現することであり、この点はエンジェル、事業会社、金融機関のベンチャー投資と根本的に異なっている。
 
(2)VCの持つ3つの顔
外部からみると、ベンチャーキャピタルは2つの顔を持っているように見える。一つは、投資したベンチャーを育てる「支援者の顔」であり、もう一つは「ファンド・マネジャー」の顔である。
VCの持つ支援者としての顔は、外からも良くみえる。先に述べたようなVCに対する表現は、大体この支援者の顔を見ていっているようだ。しかし、ビジネスとしてVCに期待されているミッションは、実はあまり外からは見えないファンドマネジャーの側面なのである。つまりVCに出資している投資家の利益にかなう行動を取ること、すなわち出資者の資金を有利に運用することがVCの役割である。VCは当然後者のファンドマネジャーとしての役割を優先するのだが、日本ではこの点の理解が案外なされていない。
VCは、ファンド・マネジャーとしてハイリスクのベンチャー投資を「儲かる商売」にしなければならない。そこで、ポートフォリオ・マネジメントが活きてくる。ベンチャーに投資して全部成功することはありえない。神様でもないVCが、いくら天才的な能力があったとしても、投資して成功するベンチャーはうまく行っても全体の3割くらいのものである。一つのベンチャーにどんなに成功する要件が揃っていても、マーケットや経済情勢、あるいは社内対立のような予想外の変化が起こる。VCが2、3社のベンチャーに投資しても全部だめになることもあり得る訳であり、確率論上の大数の法則に従って分散投資を行うことがVC投資の安定度を高める。VCは20社の投資を行っても、数社の大成功と残り数社のそこそこの成功(たとえば2倍程度の投資倍率で回収できる案件)で、投資家から期待されるファンド収益率を確保する。VCの投資後に数社のベンチャーが倒産して10億円の損失を被っても、ファンドが全体として成功を収めれば(すなわちファンド出資者が期待する収益率を実現できれば)、それで良しとすべき商売である。
●VCは個人の集まり
ベンチャーキャピタルの3つ目の顔は「個人の顔」である。米国VCの大半は個人の集まりであり、会社ではない 。後に詳しく述べるように、VCとは出資者から委託された資金を運用するために組成されたリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership)である。出資者は、ジェネラル・パートナー(General Partner、GP)という個人の集団と契約し資金を預ける。組成されたVCファンドの運営責任はGPに帰属し、また運用で生まれた利益は最終的に出資者とGPに分配される。要するに、VCの責任、権限、報酬が、すべてGP個人に付与されている。
この点、日本は米国と全く異なる。日本のベンチャーキャピタルは会社組織によって運営されており、VCファンドのGPは会社である 。VCファンドの運営責任や成功報酬は、代表取締役を筆頭とする会社にあり個人には帰属しない。両国のVCの違いを考える時、問題の根はこの基本的な違いにあることを見逃しがちである。
 
(3)ベンチャーキャピタルのスキーム
通常、米国のベンチャーキャピタルはリミテッド・パートナーシップの形態をとっている。米国の税法上パートナーシップの段階では課税されないため、この税効果を考慮してこの方式が長年採用されている。
ベンチャーキャピタルとは、こうしたパートナーシップ形式のファンドを組成し、調達された資金の投資・管理および資金回収を手がける組織である。ファンドの運営期間は通常10年間である。
ベンチャーキャピタルでは、ファンドを組成する段階で通常はファンド総額の1%をジェネラルパートナーが負担し、残り99%は外部の投資家が出資し、リミテッドパートナー(Limited Partner、LP)となる。GPは、法的に業務遂行責任とパートナーシップ運営上で発生する債務の無限責任を負う。その代価として、毎年ファンド総額の2〜3%のマネジメント・フィー(Management Fee、管理手数料とか管理報酬と呼ばれる)を受け 、かつファンド運営中に得られたキャピタルゲインの15〜25%が成功報酬として支払われる。
一方、LPの義務は出資の範囲内での有限責任であるが、GPに前述のマネジメント・フィーを支払う必要がある。LPは、ファンドにおいて現金や株式を分配する際にはGPの取り分を差し引いた全体の75〜85%を得ることになる。なお、1つのファンドへの出資額は、1名(1社)あたり50万ドルが大体の最低ラインになっている。
組成されたベンチャーファンドの1件当たりのロットは様々であるが、通常2,500万ドル未満のファンドが小型、5千万ドル以上が大型ファンドと呼ばれている。ファンドの運用期間は通常10年間であるが、これは前半数年間で投資を実施、後半数年で資金回収を行うことを目処にしているためである。米国では会社設立から株式公開までの期間が数年(NASDAQの場合)であり、平均的にはファンド設定期間が10年あれば会社設立後に投資を開始しても株式公開による資金回収には間に合う図式となる。
 
(4)洗練された専門機能の発揮
●専門家の結集
米国では、以上のようなパートナーシップを運営する「個人の集まり」がベンチャーキャピタルであり、一般の株式会社とは組織が異なる。米国でVCを専門に調査しているVenture Economics によると、1996年末時点で668社のVCがあるが、独立系、金融機関系、事業会社系の3つに分類される 。これらの構成は、独立系が495社(総管理資産413億ドル)、金融機関系が109社(同55億ドル)、事業会社系が64社(同10億ドル)であり、独立系が総資産の約8割を占める。
ベンチャーキャピタルは、ハイテク産業が立地する地域に集中している。VCの管理資産を所在地の州別にみると(表6−1)、カリフォルニア州(シェア27.3%、1996年末)、ニューヨーク州(同左22.4%)、マサチューセッツ州(14.2%)と、カリフォルニアが金融の中心地ニューヨークを上回っている。VCがハイテク企業の集積地域に本社拠点を置いているためである。
●投資家のニーズに応える運用商品の提供
第二次ベンチャーブームの1980年代には数百社の新しいVCが参入したが、この期間以降、従来のクラシック・ベンチャーキャピタルとは違ったタイプのVCが生まれていった。前述のように、現在は上位30社がVCの総資産の4割近くを占めており、巨大なファンドと特色を持った中堅中小のファンドに色分けされている。

VCは次のようにタイプ分けできる。
メガ・ファンド(Mega Fund)
億ドル単位のファンドを運営する大手ベンチャーキャピタルはメガ・ファンドといわれる。1996年末時点で、全米に5億ドル以上の管理資産を持つVCは42社存在する。これらは独立系のVCであり、1970年代から80年代初頭に設立されたVC業界の古株が多く、数本以上のファンドを運営している。ファンドの運営は、アーリーステージ の企業とレイターやメザニンステージ(mezzanine stage、株式公開前段階)の企業を組み合わせて投資するスタイルである。いずれも投資企業に対しては自社単独あるいは少数のVCで共同出資するがリード・インベスター(筆頭外部株主)を務めベンチャーキャピタリストが社外取締役として経営に参画することも多い。これらのVCへの出資者は米国内の著名な年金基金や企業、大学、財団である。KPCB、セコイア・キャピタル、メイフィールド・ファンド、インスティテューショナル・ベンチャー・パートナーズ(以上シリコンバレー)、アドベント・インターナショナル、シュローダー・ベンチャーズ(以上ボストン)、パトリコフ(ニューヨーク)、NEA(ボルチモア)など、大手として名が知られるVCが多い。
メインストリーム・ファンド(Mainstream Fund)
運営するファンド資産が5千万ドル以上のような中堅から準大手クラスで独立系のVCである。全米には管理資産百万ドル以上のVCが352社存在する(1996年末時点)。これらVCの多くがメインストリーム・ファンドに該当する。彼らの運営スタイルはメガ・ファンドに似ているが、メガ・ファンドがリード・インベスターとなる企業に共同出資するパターンも多い。大部分のメガ・ファンドはシリコンバレー、ボストン、ニューヨークが拠点だが、メインストリーム・ファンドは全米に広く分布している。
大企業系ファンド
大企業が自社の目的に従って運営するファンドであり、先述のように全米には金融機関系VCが109社、事業会社系が64社存在する。米国でも、アップル、AT&T、ゼロックスのような大企業や、J.P.モルガン、バンカメリカ、メリルリンチのような大手金融機関は、VCがバックアップするベンチャーが大ヒットする状況をみて、ベンチャーに対する自社の出資や提携だけではなく、VCと共同歩調をとってこうした将来性のあるベンチャーを囲い込もうとしている。ファンドの出資元は当然親元の大企業であり、投資方針も親会社の事業戦略に対応した分野を中心としたものであり、これらはターゲット・ファンド(Target Fund)と呼ばれる。
ニッチ・ファンド(Niche Fund)
特定分野にターゲットを絞った独立系のVCであり、ほとんどの資産規模は5千万ドル以下である。例えばアーリーステージのベンチャーを専門にするVCや、環境関連やバイオ分野に特化したVC、コンサルティングとVCを兼営する会社などがある。
(続く)
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