山本尚利

1.手放しで喜べるか?日本人のノーベル賞受賞ニュース
 2008年10月上旬、歴史に残るビッグニュースが舞い込みました。4人の日本人のノーベル賞受賞が決まったからです。2008年度物理学賞の受賞者は、南部陽一郎、小林誠、益川俊英の3氏、化学賞が下村脩氏と合計4人です。誠におめでたいニュースに水を差すよう気が引けますが、この受賞ニュースを手放しで喜んでよいものかどうか、ちょっと待って!と言いたくなります。なぜなら、どうして唐突に日本人が受賞できるのか、今一不透明さを感じるからです。
 そこで思い起こせば、6年前の2002年にも、田中耕一氏、小柴昌俊氏がそれぞれ化学賞、物理学賞に輝いています。とくに、一介の企業サラリーマン研究員であった田中氏にとって、キツネにつままれたような男版シンデレラ・ストーリーだったわけです(注1)。当時の筆者は、彼の受賞に他人事ながら非常に感激したのを憶えています。この当時は何かウラがあるのではないかとはまったく疑いもしませんでした。
 その後、2005年、郵政民営化実現で国際金融資本オーナーに貢献した小泉純一郎前首相にノーベル平和賞を与える運動が、2007年トヨタ自動車出身で元経団連会長の奥田碩氏中心に行われているという報道に接し、最近のノーベル賞には何かウラがありそうだと筆者は疑いを持ち始めました(注2)。

2.中立性に疑いのある最近のノーベル賞
 筆者の専門MOT(技術経営)の方法論のひとつ、リアルオプション理論による技術評価法(注3)にて使用されるブラック・ショールズ・フォーミュラの元祖、マイロン・ショールズ博士(スタンフォード大学教授)は1997年ノーベル経済学賞受賞者ですが、彼の金融工学(投資科学)理論は、今日、米国発の世界的金融危機の原因となったローン証券化商品(CDO:Collateralized Debt Obligation)あるいは証券化ローンの保険付複合商品(CDS:Credit Default Swap)に応用されています。この例から明らかなように、ノーベル賞、とりわけノーベル経済学賞は国際金融資本オーナー(世界的寡頭勢力)に利用されている疑いが濃厚です(注4)。経済学は「沈黙の兵器」のひとつであるという世界的寡頭勢力の考え(注5)とも一致します。
 このようにノーベル賞に疑いをもって再度、今回の日本人のノーベル賞受賞劇をみると、前回2002年当時と極めて類似性が高いと感じざるを得ません。そこでまず、2002年当時のノーベル賞と国際金融資本オーナー(寡頭勢力)の関連性を挙げてみますと、2002年前後に、日本政府の外貨準備高が2000億ドルから8000億ドルと6000億ドル(60兆円規模)も急増しています。本件についてミスター円の榊原英資氏(早稲田大学教授)は「前代未聞の巨額ドル買い介入」と暗に、当時の竹中平蔵氏(経済財政政策担当大臣、金融担当大臣兼務)を批判しています(注6)。つまりこの時期、日本政府は米国覇権主義者の背後に控える寡頭勢力を非常に喜ばす金融政策をとっていたわけですが、この政策は日本の国益に反します(注7)。竹中金融政策のおかげで米国はイラク戦争の財源を確保できたはずです。2002年日本人のノーベル賞受賞劇は日本国民の目をそらす「ほめ殺し作戦」(対日国家ハラスメント)だった疑いが濃厚です。

3.今回の日本人ノーベル賞受賞劇の狙いとは
 さて、今回の日本人の2008年度ノーベル賞受賞劇と国際金融資本オーナー(寡頭勢力)の関連性とは何でしょうか。2008年10月10日のテレビニュースにて同年9月16日(リーマン・ブラザーズ破綻の翌日)から10月10日まで、日銀はおよそ半月(18営業日)でなんと38兆円も短期金融市場向け資金供給公開オペを行ったと報じられました。このオペはまさに米国発の世界金融危機で重傷を負った日本の金融システム維持のための緊急輸血のようなものです。2008年9月30日終値11160円(東証時価総額352兆円)だった日経平均株価が10月10日には8276円(時価総額261兆円)に暴落しました。その差、なんと91兆円です!しかし今回に限って、日銀の38兆円規模の資金供給ではまだ足りないかもしれません。
 この日本企業株の暴落の原因は、主に外人投資家の換金売りといわれています。そのため9月末から10月上旬にかけて、巨額の円需要が生じたということです。日本優良企業の外人持ち株比率は30~50%とみられますので、上記38兆円規模に匹敵する巨額の円キャッシュが外資(ヘッジファンドを含む)の手元に渡っているはずです。
 もし、彼らが手元円をただちに米ドルに交換しているなら、株暴落と同時に円の暴落が起きたはずですが、10月13日現在、円相場は1ドル99円台であり、円安が起きるどころか、むしろ円高傾向にあります。つまり彼らは円に比べて米ドル相場に、より不安をもっており、日本企業株の売却益を米ドルに交換したくともできない状態にあるとみられます。今の彼らは二つのシナリオをもっているでしょう。(1)近未来、米国連邦政府が金融政策に失敗して米ドルが暴落したら、再度、日本の優良資産を買戻しするシナリオ、
(2)公的資金注入を計画している米連邦政府の金融政策が評価されて米ドルの信用が回復したら、手元円をドルに交換し、信用収縮によって生じた損失の補てんに流用するシナリオです。
(2)のシナリオが選択されると外国為替市場にて、外資サイドから猛烈な円売り・ドル買いが起きることになります。しかし日銀が円を買い支えるはずですから、深刻な円暴落は起きないでしょう。ところで日銀は2008年9月18日、FRB(米国連邦準備制度理事会)と600億ドル(6兆円規模)の米ドルスワップ協定(日銀による他国通貨のドル供給は戦後初めての試み)を結んだと報じられています。これは(2)のシナリオを想定して、日本国民へのショックを和らげるための予行演習でしょう。
 上述した2002年前後の日本政府による60兆円規模の円売り・ドル買いオペでは、日本国民の預貯金が米ドルに化けて米国に還流しました(事実上、一方通行の円流出)。今回、上記(2)のシナリオが選択されたらどうなるでしょうか。仮に外資が総額60兆円規模の円売り・ドル買いを行ったら、日銀は米ドルスワップ協定で6000億ドル(1ドル100円と仮定)をFRBから調達して外資から円を買い取り、借りた米ドルを売ることになります。その結果60兆円規模の円がスワップ協定に従ってFRBの手元に残ります。このシナリオこそが今回、日本人ノーベル賞受賞劇で、またも日本国民を煙に巻こうとする狙いなのでしょう。
不景気に苦しむ日本人を元気付けるノーベル賞(4個)は一個あたりなんと15兆円の計算です。2002年のときは、ノーベル賞(2個)が1個あたり30兆円だったが、今回二度目なので、1個15兆円のバーゲンセールだよ、ワハハハ・・と寡頭勢力の高笑いが聞こえそうです。これが高いか安いか、ノーベル賞をことのほか有り難がる日本国民みなさんの考え方次第です(笑)。ちなみに対外債務超過に陥っている米国連邦政府が2002年前後に日本政府に売った60兆円規模の米国債の債務履行をすることはないと考えられます。なお、最近、予測をズバズバ当てて、世間の評価が高まっている副島隆彦氏によれば、2008年現在、日本の対米債権累積総額は600兆円規模に達している模様です(注8)。
(やまもと・ひさとし)

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注1:ベンチャー革命No.23『ノーベル賞受賞者田中耕一主任』2002年10月14日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr023.htm
注2:ベンチャー革命No.230『小泉シンクタンク:トヨタのスモールギフト』2007年5月13日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr230.htm
注3:拙著(共著)[2003]『最新 技術経営評価法』日経BP
注4:本山美彦[2008]『金融権力』岩波新書
注5:ベンチャー革命No.271『情報と技術を管理され続ける日本』2008年9月14日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr271.htm
注6:榊原英資[2008]『強い円は日本の国益』東洋経済新報社
注7:日本政府が巨額の円売り・ドル買いをしても、買ったドルは日本国内では使えないので、結局、米国債で運用される運命となる。つまり当時の竹中金融政策は日本国民の預貯金が国民の知らぬ間に米国債(凍結債権)に化ける売国的金融政策であった。なぜなら対外債務超過に陥って財政破綻しているに等しい米国連邦政府に日本政府が購入した米国債を償還する財力があるとは思えないからだ。
注8:副島隆彦[2008]『恐慌前夜』祥伝社